183日ルールとその数え方は? 中国個人所得税の実務シリーズ①
183日ルールとは?
一般的に中国に出張する外国人の中国での滞在日数が年間183日以下であれば中国での納税義務はないと理解されており、このことは通称183日ルールと呼びます。
この183日という数字の根拠は、日中租税条約の中で規定されており、具体的には当条約第15条において以下の3つの条件を満たしている場合は中国での課税が免除されることとなります。
- 「報酬の受領者が、当該年を通じて合計183日を越えない期間、当該他方の締約国内に滞在すること。」
→中国での滞在が183日以内であること。
- 「報酬が当該他方の締約国の居住者でない雇用者又はこれに代わるものから支払われるものでないこと。」
→給与が中国内の雇用者から支払われていないこと。
- 「報酬が雇用者の当該他方の締約国内に有する恒久的施設又は固定的施設によって負担されものでないこと。」
→給与が中国内のPEによって負担されていないこと。
(PEの解説ついてはこちら)
(中国でのPE課税についてはこちら)
ただし、董事報酬はこの183日ルールの適用対象外となりますので、中国外に住む董事や董事長に支払われる董事報酬は中国の滞在日数に関わらず中国での納税義務が生じます。
183日の数え方は?
では、この183日の具体的な数え方ですが、これは日中租税条約においては具体的に定められていません。
ただし、中国国内のルールによれば中国に入国した日や出国日、国内外を往復または複数回往復した日はそれぞれ1日として計算することとされています。
つまり例えば2018年4月10日に中国に入国し、17日に出国した場合の4月の滞在日数は8日間になるということです。
さらに中国滞在期間中に中国の祝日などが含まれる場合も滞在日数に含める必要がありますが、OECDモデル条約第15条関係のコメンタリーパラグラフ5においては国外の2地点間のトランジットで立ち寄る場合は日数に含めないとされています。
また、この183日を計算する期間は日中租税条約によると暦年ごと、つまり1月1日から12月31日までの1年間を対象として判定することとなります。
そしてこの対象期間は租税条約によって暦年をベースにする場合と連続するいずれの12ヶ月も対象となる場合との2つのパターンがあるので注意が必要です。
例えば、香港子会社に出向している日本人出向者が中国の関係会社にも頻繁に出張し、中国での183日の滞在が問題になるような場合には、中国と香港の間の租税条約が適用されます。
その場合、183日ルールは暦年ではなくいずれの連続する12ヶ月の期間においても183日以内であるかどうかによって判定することになります。
つまり仮に2017年後半(7月1日〜12月31日)と2018年前半(1月1日〜6月30日)の間にそれぞれ中国での滞在日数が100日である場合、暦年では2017年も2018年も183日を超えていません。
一方連続する12ヶ月で見ると2017年7月1日〜2018年6月30日までの連続する12ヶ月においては滞在日数が100+100=200日になりますので、183日を超えていることになります。
出張で183日を超えた場合は?
頻繁に中国に出張していると、年間の滞在日数が183日を超えてしまうことがありますが、その場合はどのように所得を申告すればいいのでしょうか?
まず、出張での滞在日数が183日を超えると、183日ルールを満たさないことになりますのでその年度の中国内源泉所得にかかる納税義務が生じます。
その場合183日を超えた月の翌月15日までに所得税の申告が必要となります。
その場合183日を超えた月の翌月15日までに所得税の申告が必要となります。
中国内源泉所得をどのように計算するかということについては、所得のうち中国に滞在した日数分は中国内源泉所得にあたるものとして、所得税を中国内と中国外の滞在日数で按分することにより計算します。
この日数按分の計算は、所得額(給与額)そのものを日数按分するのではなく、一旦所得全額に対して中国の個人所得税を計算した上で、所得税額を日数按分することにより算出する点に注意が必要です。
すなわち2018年4月の給与手取り額及びその他のベネフィットの金額が計100万円で、中国出張の滞在日数が7日間であった場合、100万円をグロスアップした金額を7日/30日で按分するのではなく、100万円をグロスアップした上で算出される中国での税額(仮に40万円とします)を7日/30日で按分することによって中国内源泉所得にかかる税額(9.3万円≒40万円×7日/30日)が算出されます。
この場合、中国の高い税率が適用されてしまいますので、通常は日本の所得税よりも税負担は重くなります。
さらに、上記の通り183日ルールを判定する際の滞在日数の計算には出入国の当日はそれぞれ1日として計算しますが、個人所得税の税額の日数按分に使用する中国滞在日数については出入国日を半日とするよう定められています。
(上記の例の2018年4月10日に中国に入国し、17日に出国した場合、所得税額の按分計算においては10日と17日の滞在日数はそれぞれ0.5日と計算されますので、合計滞在日数は7日間になります。)
183日を超えて申告していないと、無申告及び過少申告に対するペナルティが課される可能性があります。ペナルティは追徴税額の50%以上500%以下の加算税及び年率18.25%の延滞税とされています。
出張から出向に切り替えた場合は?
出張から出向に切り替えた場合は、その時点で出向者の人件費は中国子会社もしくは中国内PEによって負担及び支給されることになりますので、出向時点から中国での納税義務が生じます。
さらに、出張での滞在とその後の出向によりその年の中国での滞在日数が183日を超える場合は、厳密には出張期間中の国内源泉所得も免除対象ではなくなるため、出張時に滞在した日数分も個人所得税を納税する義務が生じます。
ただし、出向者は通常出向期間が開始する前に何度か中国に出張するのが一般的であることを考えると、ほとんどの出向者が出向期間前に中国での出張滞在があり、それを全て計算、申告するのは実務的にも申告作業が非常に煩雑になることから、出向前の出張滞在における所得税は事実上免除されているものと言えます。
参考規定:中国個人所得税法、個人所得税法実施条例、日中租税条約、「中国内に住所のない個人がいかに満5年の居住を計算するかという問題に関する通知」(財税字[1995]98号)、「中国内に住所のない個人の個人所得税計算納付にあたっての若干の問題に関する通知」(国税発[1995]125号)「中国内に住所のない個人に対して租税協定及び個人所得税法を施行するにあたっての若干の問題に関する通知」(国税発[2004]97号)、OECDモデル条約
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