未控除仕入増値税還付、本当に返ってくる?

 

背景

中国の増値税は日本の消費税と同様に、基本的に売上に対して仮受けた増値税から仕入に対して仮払いした増値税を控除することにより納税額を計算します。
ただし、赤字企業や大規模な設備投資を行うケースなどで一時的に売上増値税が仕入増値税を下回って控除ができないという状態が生じることがあります。また、増値税率の異なる製品を扱う企業などではそれが常態化してしまい、資金繰りを圧迫するケースもあります。
具体的な業種を上げると、13%の増値税率で食材仕入れ、9%で内装や賃料を払い、6%でサービスを販売する飲食業、倉庫賃料が9%であるのに対して受け取る倉庫保管料に6%が適用される倉庫保管業、車両のリースやガソリン代に13%が適用され、輸送収入に9%が適用される物流業など、サービス業に多く見られます。
 
これまでの増値税制度では、最終的に控除できない仕入増値税について清算時にも還付されず、企業の実負担となっていました。
こうした問題点に対し、2022年からは以下の条件を満たす幅広い業種の企業に対し、未控除のまま計上されている仕入増値税の還付が認められることとされています。
 
(2018年の特定業種に対する未控除増値税の還付政策についてはこちら
 
 

適用条件

①還付申請が可能となる対象企業は以下の通りです。

  • 全ての業種における小規模・零細企業(一般納税人である個人事業主を含む)
  • 製造業等に属する下記業種の企業(下記業種に関連する増値税課税売上高が全体の50%以上を占めていること)
 ・製造業
 ・科学研究及び技術サービス業
 ・電力、熱力、ガス及び水の生産と供給業
 ・ソフトウェア及び情報技術サービス業
 ・生態保護及び環境整備業
 ・交通運輸、倉庫保管及び郵政業

  • 卸売小売業等に属する下記業種の企業(下記業種に関連する増値税課税売上高が全体の50%以上を占めていること)
 ・卸売及び小売業
 ・農、林、牧、漁業
 ・宿泊及び飲食業
 ・住民サービス、修理及びその他のサービス業
 ・教育
 ・衛生及び社会サービス業
 ・文化、スポーツ及び娯楽業

 

②対象企業は以下の条件を満たす必要があります。

  • 納税信用等級がAランクまたはBランクであること
  • 税還付の申請前 36ヵ月間に未控除税額、輸出税還付の詐取もしくは増値税専用発票の虚偽発行がないこと
  • 税還付の申請前 36ヵ月間に税務機関に 2 回以上脱税による処罰されたことがないこと
  • 2019年4月1日から即時徴収・即時還付、先徴収・後還付政策を享受していないこと
 
 

還付範囲

増値税還付の対象となる未控除仕入増値税の範囲は計算上残存未控除税額と増加未控除税額とに分類します。
残存未控除税額は2022年還付申請時点と2019年3月末時点の残高の内、低い方を指します。
増加未控除税額は2022年還付申請時点の月末残高が2019年3月末残高と比較して上回る場合、その増加分となります。
 
つまり、未控除税額が2022年直近月末≦2019年3月末であれば直近の月末残高である残存未控除税額が対象となり、2022年直近月末>2019年3月末であれば2019年3月末残高(残存未控除税額)+そこから2022年直近月末までに増加した残高(増加未控除税額)が対象となるため、結局直近の月末残高が対象範囲となります。
 
還付金額については、残存未控除税額と増加未控除税額に対してそれぞれ仕入税額構成比率をかけて算出します。
仕入税額構成比率とは、2019年4月から還付申請時点までの増値税専用発票、有料道路通行料増値税電子普通発票、税関輸入増値税専用納付書、及び納税証明の総額を全ての控除済仕入税額で割った比率として計算します。
 
還付申請は残存未控除税額については一括、増加未控除税額は毎月の申請となります。
 
 

実務上の運用

それでは、この還付政策は制度上執行されてしばらく経ちますが、実際の運用において本当に還付が認められるのでしょうか?
 
この点、該当する企業については、税務局担当者の方から申請するように促してくるケースも見られ、実務においても積極的に制度の活用が後押しされているように思われます。
ただし、中国では昔から輸出時の増値税還付に関する不正が非常に多く、本政策もこうした不正に利用されないよう同時にかなり厳しくチェックされているようです。
 
実際に還付申請を行うと、税務局の税務システムにより審査、リスク診断が行われ、それをパスしてから管轄税務局の局長⇒会社登記地の「区」の審査と進みます。
一旦システム上「リスクあり」と判断されてしまうと、還付手続きが難航し、システムでの抽出項目をきっかけに税務調査にも発展しかねないため注意が必要です。
 
筆者の知るケースでは、仕入で取得した発票に記載されている「取引対象物」と売上発票の「取引対象物」とが整合していない、という指摘を受けたことがあります。これは中国内グループ拠点間でコスト負担などの調整があったため確かに一理ある指摘ではあったのですが、色々と事情を説明の上最終的には還付が認められました。
また他のケースでは、取得した仕入発票を発行している企業にリスクがある、ということで対象企業まで「リスクあり」とされてしまったこともあります。
中国では違法に発票を発行する代理発行業者が無数にあり、例えば従業員の経費精算の際に正規の発票が取得できないため、代わりの発票を用意するということが実務上見られますが、会社の経理処理のために業者から発票を購入したりすると税務局システムによって業者の税務リスクが間接的に影響してしまうことがあるようです。
 
通常還付税額が数十万元を超えてくる企業に対しては税務局はより重点的に審査を行います。
そのため、未控除税額が多額に上る企業は還付を申請する前に、その他の税務上の懸念点があればまずそれを解消してから申請することが推奨されます。
 
 
参考規定:「増値税の期末未控除税額還付政策のさらなる実施強化に関わる徴収管理事項に関する公告」(国家税務総局公告[2022]4号)、「増値税の期末未控除税額還付政策のさらなる実施強化に関する公告」(財政部、国家税務総局公告[2022]14号)、「増値税の期末未控除税額還付政策の実施速度をさらに加速することに関する公告」(財政部、国家税務総局公告[2022]17号)、「増値税の期末未控除税額還付政策の実施速度加速を持続することに関する公告」(財政部、国家税務総局公告[2022]19号)、「増値税の期末未控除税額還付政策の対象拡大に関する公告」(財政部、国家税務総局公告[2022]21号)
 
 
 
 

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