海外子会社撤退時の損失は寄附金(損金不算入)になるか?
海外事業からの撤退は主に出資持分を譲渡するか清算するかといった選択肢があります。
その際、特に債務超過の海外子会社の持分を売却したり、会社を清算したりする際には無償で売却どころか親子ローンの債権放棄をしたり清算コストを賄うために追加出資をする必要があるなど、元々の出資額以上の損失が発生することもあります。
こうした撤退時の損失が寄附金として認定されると、特に国外関連会社の場合には全額が損金不算入となりますので、寄附金と認定されるかは非常に重要な問題になります。
では、具体的にはどのような場合に寄附金と認定されるのでしょうか?
①出資の評価損
まず出資の評価損は、純資産価額がおおむね出資時の50%以上下回ることになった場合は、損金に計上することが可能です。(法人税法第33条第2項、法人税法施行令第68条第1項第2号ロ、法人税法基本通達9-1-9(2))
債務超過で清算する際、出資額は清算に伴い消却する必要がありますが、この消却損も損金となります。
国内の100%子会社であれば、清算時の繰越欠損金を親会社が引き継ぐことになりますので、親会社で消却損の損金計上は認められません。
②追加拠出費用
出資額がゼロになるのみでなく、破産が認められない、或いは現実的な選択肢ではない海外子会社の場合、債務超過を解消して清算手続きに移行するために、さらに親会社が追加で費用を負担する必要がある場合があります。
このような場合の追加費用については、法人税基本通達で以下のように定められています。
法人税基本通達
(子会社等を整理する場合の損失負担等)
9-4-1
法人がその子会社等の解散、経営権の譲渡等に伴い当該子会社等のために債務の引受けその他の損失負担又は債権放棄等(以下「損失負担等」という。)をした場合において、その損失負担等をしなければ今後より大きな損失を蒙ることになることが社会通念上明らかであると認められるためやむを得ずその損失負担等をするに至った等そのことについて相当な理由があると認められるときは、その損失負担等により供与する経済的利益の額は、寄附金の額に該当しないものとする。
つまり、仮に撤退時の損失を親会社で負担しないとより大きな損失が発生することが明らかな場合に限り、寄附金に該当せず、損金算入が可能ということです。
さらに、国税庁のタックスアンサーにおいて、損失負担が経済合理性を有するかは下記を総合的に検討することとされています。
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損失負担等を受ける者は、「子会社等」に該当するか。
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子会社等は経営危機に陥っているか(倒産の危機にあるか)。
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損失負担等を行うことは相当か(支援者にとって相当な理由はあるか)。
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損失負担等の額(支援額)は合理的であるか(過剰支援になっていないか)。
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整理・再建管理はなされているか(その後の子会社等の立ち直り状況に応じて支援額を見直すこととされているか)。
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損失負担等をする支援者の範囲は相当であるか(特定の債権者等が意図的に加わっていないなど恣意性がないか)。
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損失負担等の額の割合は合理的であるか(特定の債権者だけ不当に負担を重くし又は免れていないか)。
上記のタックスアンサーにおいて各項目がQ&A形式で解説されていますので、ここに再度個別に検討することは割愛しますが、海外事業からの撤退時の損失については、最終的には実際に経営危機に陥っており(上記2)、相当な理由がある(上記3)ということが最も議論を伴うポイントになると思います。
すなわち、清算貸借対照表において実質債務超過となっており、事業の先行きの好転が見込めないことが合理的に説明できる、或いは大口の取引先を失った、当初の事業計画とあまりにも乖離しており、軌道に乗せるのが非現実的である、などの切迫した状況下で、現状で事業を継続していても撤退による一時的な損失を上回るコストが最終的に発生してしまい、さらに破産の方法を取ることで撤退コストを抑えることが子会社所在国の制度上、或いは風評等の問題で現実的でないといった更なる損失補填をする必要性が合理的に説明可能な状況であることが必要になります。