中国「網紅」(インフルエンサー)の脱税手法とは?

 

中国の「網紅(ワンホン)」と呼ばれるインフルエンサーに対する徴税活動が強化されています。
 
中国の税務当局は、2021年9月にライブストリーミングを含むエンターテインメント部門の徴税を強化すると発表し、直近では同年12月に「ライブコマースの女王」と呼ばれる薇婭(Viya)氏に対して13億4100万元(約240億円)という巨額の未納税金と追徴課税及び罰金が課されました。
これとほぼ同時期に各地方政府の税務当局は再度著名人に対して21年内の納税額の自主調査や是正を促し、応じない者は厳正に対処する旨の告知を出しています。
 
1件当たりの脱税額や追徴額の大きさから最近は紙面を賑わすことの多い話題ですが、実際のところ中国のインフルエンサーの間でそれほどに脱税が横行しているのでしょうか?またどのような手法で脱税が行われるのでしょうか?
 
税務当局の発表では、その手法の詳細までは開示されていませんが、所得隠しや所得の性質を偽り虚偽の申告をしていた、とのことです。
所得隠しについてはそのままですが、所得の性質を偽るという点は本来「労務報酬所得」として申告すべき所得を「経営所得」として申告していたようです。
それでは中国においてこの2つの所得にどのような差異があるのでしょうか?
 
まず「労務報酬所得」は個人が労務を提供して得られる収入で、「給与所得」とは区別されますが、いずれも総合課税として合算の上、最高で45%の所得税率が課されます。
一方、「経営所得」は個人事業主(个体工商户)が生産、経営活動を通じて取得した所得で、個人の独資企業の所有者として得られた所得を指します。
 
最大の違いは、「経営所得」の計算は1事業年度の経営収入から、かかったコストといくつかの控除項目を控除した上で算出した金額を「経営所得」として、それに対し最大で35%の税率が課される点です。
 
さらに、中国では個人事業主や個人商店が集計したコスト(発票)の信頼性が乏しいという事情もあり、各地の地方政府は業種に応じた見なし利益率を用いて直接「経営所得」を算出する計算方法を認めている場合もあります。
例えば上海市の一部の地域において登記されたサービス業に従事する個人事業主の見なし利益率は「10%」と定められています。
この見なし利益率を適用すると、インフルエンサーがライブコマースによって得た所得を「経営所得」として申告することができれば、収入に対する実効税率は最高で3.5%(見なし利益率10%×所得税率35%)のみとなり、「労務報酬所得」として最高45%の総合課税が適用されるよりも税負担を大きく軽減することが可能となります。
 
ただし、上記の方法にも制約があり、1カ所で登記された個人事業主としての収入が年間500万元に達すると増値税法上の「一般納税人」として扱われ、原則は見なし利益率による所得の算定が使えなくなります。
そのため、冒頭の薇婭(Viya)氏のケースに限らず、中国で大金を稼ぐ個人は自身や親族の名義を借りて、数十社以上の「個人事業」を登記することで各個人事業の収入を年間500万元以下に抑え、本来総合課税で課されるべき税金を大幅に逃れるという方法が常態化しています。
 
中国ではこのような「国内のタックスヘイブン」とも呼ぶべき仕組みを悪用する手法は上記に留まらず色々と存在するのですが、近年のビッグデータを活用した分析、調査により今後は難しくなっていくものと予想されます。
実際、21年9月の徴税強化の通達公布以降、すでに数千人のインフルエンサーが自主調査と修正申告を行ったと言われています。

 

 

 

 

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