中国子会社 不正・粉飾決算の代表事例まとめ
18年2月13日付で日本郵船から中国子会社の不正に関するプレスリリースが公開されました。
上海の連結子会社において現地採用の元幹部らによる業務上横領などの不正な費用支出が行われた可能性があり、現時点での決算への影響は総額20億円程度に上るとのことです。
詳細は現時点で開示されていませんが、金額的にも複数の幹部が関与しており、少なくとも数年前からは発生していたものと推察されます。
(中国子会社の不正・資産横領の典型パターンはこちら)
定期的にこうした中国子会社での不正が報じられますが、報道されていないものも含めると中国では毎年かなりの数の不正が発生しており、大きなカントリーリスクの一つとなっています。
ここでは中国子会社で発生した不正の中で、よく名前の挙げられる代表的なケースを公開情報をもとに簡潔にご紹介したいと思います。
ここでは中国子会社で発生した不正の中で、よく名前の挙げられる代表的なケースを公開情報をもとに簡潔にご紹介したいと思います。
LIXIL
住宅や商業用ビルの建材や水回り設備を販売するLIXILは2013年、ドイツ大手水栓器具メーカーであるグローエを約3800億円で買収しました。
グローエの傘下には中国のジョウユウという孫会社があり、この会社で2015年に多額の簿外債務があることが発覚し、LIXILはジョウユウへの債務保証に関する損失と保有するジョウユウ株の価値下落による損失合わせて660億円を計上することを余儀なくされたというものです。
このジョウユウは元々はグローエの子会社として設立されたものではなく、中国人によって設立されたもので、当時の創業者がLIXILグループに入ってからも経営を担っていました。
グローエに売却される際、及びグローエがLIXILに買収される際の二回にわたってデューデリジェンスが行われていたはずですが、巧妙に粉飾して簿外債務を隠していたものと思われます。
LIXILから見ればグローエを通じた孫会社にあたるジョウユウでの粉飾決算ですが、海外の孫会社の不正会計という点では富士フィルムHDのニュージーランド及びオーストラリアにある孫会社や沖電気工業のスペインのグループ会社などでも粉飾決算が発覚しており、海外にある孫会社の管理の難しさが伺えます。
江守商事
福井の化学品、繊維などを扱う名門商社であった江守商事を中核とする江守グループですが、力を入れていた中国事業において粉飾決算が発覚し、グループは2015年破産となりました。
粉飾決算の内容は中国事業の売り上げが急拡大する中で、その売り上げの大半が中国子会社の総経理が親族の経営する会社に対して売ったと見せかけた架空取引だったというものです。
この架空取引は2005年頃から実に10年近くも繰り返されており、主要取引先の一つが破綻するまで発覚が遅れてしまったことにより影響額が莫大な規模に及んでしまうこととなりました。
親族の経営する同一の会社に対し、同一商品を何度も往復して売買取引をしていることからしっかり精査すれば見つけられたのではないか、と思うところもありますが、中国の場合夫婦別姓で配偶者側の親族の経営する会社などを介在させると、少なくとも書類の上では瑕疵を認められないため、基本的に書類の入手によって心証を形成する通常の会計監査では発見するのがかなり困難だったのだと思われます。
東京衡機
試験機の開発、設計、生産などを手がける東京衡機はプラスチック部品等の製造、販売を行う海外事業の中核子会社を中国江蘇省の無錫市に有していました。
この子会社で2017年に経営を任されていた中国人董事兼総経理(本社の執行役員)による資産の横領が発覚したという、本稿の冒頭記載の日本郵船のケースと近いパターンです。
この事件で発覚した不正は、会社で購入した商品券を換金した資金の着服、外注取引を利用した会社グループの従業員等の経営資源の不正流用、架空売上の計上等による不正な財務報告、コンサルティング取引を偽装して捻出した資金による取引先へのリベート等の支払い、不適切な不動産賃貸借契約を利用した資金の社外流出、不適切なリース取引、とやりたい放題で、ガバナンスが全く機能していなかったことが伺えます。
不正の内容自体は自身が実質的に支配する会社を悪用した資産横領がメインで、中国ではありがちですが、特筆すべきはこの中国人総経理が中国子会社の経営人材として外部の人材紹介会社からの紹介により採用されているという点です。
中国の方は一般的にルールや会社に対するコミットメントは日本人より低く、また会社は流動的な事業環境に柔軟に対応するためにある程度の裁量をもたせた社内ルールを設けざるを得ず、内部統制上の隙が生じやすいと言えると思います。
一方で会社内外に囚われず人間関係を重視する傾向にあるため、形式的な内部統制を構築するよりも社内の人的な信頼関係が実質的な牽制になることも多々あると感じています。
それだけに中国人経営層を登用するには統制云々より本人の人間的な資質が最も重視すべき要素であるところ、人材紹介会社を通じて採用した人物を信頼できるか見極めもせずすぐに多大な権限を与えてしまったことにより、結果として甚大な損失を被ることになってしまいました。
それにしても2015年1月1日に本社で採用され、同年2月1日に無錫子会社に出向した直後から取引実態のない費用支出を行っているところからは会社へのコミットメントどころか最初から横領する気で入社したのではないかとすら疑われるような悪質なケースです。
神栄
老舗商社である神栄は上海にある貿易子会社において、2015年以降に約6億円の架空取引が計上されていることが発覚し、2017年に過年度決算を修正することとなりました。
滞留債権を隠蔽するためとのことですが、おそらく焦げ付いた売掛金に対して貸倒引当金を計上するのを避けるため、同じ会社との取引を架空計上することにより回収サイトを短く見せていたものと思われます。
2015年度の神栄商事グループは連結決算で赤字を計上しており、不正が発覚した上海子会社では主に繊維品を扱っていたことから、中国での厳しい事業環境の中で海外の各子会社への業績へのプレッシャーやノルマがかなりあったのでは、と推察されます。
本件では主に本社から派遣された日本人総経理による不正ですが、多くは自己の利益のために不正を図る中国人のケースと比較して、どちらかというと自分のためというより本社からのプレッシャーや本社の要求に応えるための不正という点で日本人らしい不正と言えます。
イオンファイナンシャルサービス(台湾)
続いてこちらは厳密には中国子会社ではなく台湾ですが、イオン銀行などを傘下に持つイオンファイナンシャルサービスの台湾子会社の事例です。
2007年頃から7年以上にわたり売掛金の過大計上や貸倒引当金の過少計上による累計29億円もの粉飾決算が行われていたというもので、加えて財務担当役員(董事)による約7億円弱の着服も発覚しました。(後に約4億円は返済)
粉飾決算の方は日本人経営者によって何とか黒字決算を達成するという目的で行われましたが、台湾人役員による資産の横領はジョブローテーションが存在せず、10年以上財務経理を担当していたという背景があり、同時に二つの異なる種類の大きな不正が進行していたということで、内部統制が根本から機能していなかったものと思われます。
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