中国の休眠制度を解説!実質放置状態のリスクは?

 

中国事業の撤退を検討されている日系企業の担当者から、清算せずに放置するとどうなるんですか?という質問をしばしばいただきます。
或いは、諸事情があり中国事業については一旦休止するものの、将来再開する可能性があるので残しておきたい、というご要望もいただきます。
 
中国の子会社を休眠状態にしたい場合、休眠会社としての登記は可能でしょうか?
また、そのまま放置して実質的な休眠状態とするとどのような問題が生じるのでしょうか?
以下では中国の休眠制度を紹介するとともに、休眠登記せずに放置することで生じるリスクについても解説します。
 
 

①休眠制度の概要

これまで中国の制度上、企業に対しての休眠制度が存在せず、休眠=営業活動の終了として登記の抹消をしないといけないと定められていました。そのため会社にとっては最終的な撤退を意思決定するまでの一定期間、会社を維持するのであれば原則コストをかけて運営し続ける必要がありました。
また、営業活動を停止した会社に対しては営業停止期間が1年を超えると登記機関が営業許可証と印鑑の没収の上登記の抹消ができることとされていました。
 
これに対し、2022年3月1日に施行された新「市場主体登記管理条例」では休眠制度が明確化され、企業は自主的な選択として3年を上限に休眠会社としての登記が認められるようになりました。
休眠会社の申請が認められる要件としては、「天災、事故、公衆衛生事件、社会安全事件等の原因により経営難に陥った場合」に限定されています。
そもそも天災や事故等の特殊な事情がないと認められないのか、という疑問が生じますが、申請書類上「天災」「事故」「公衆衛生事件」「社会安全事件」に加え「その他」の項目を選択することができます。
「その他」については「各省、自治区、直轄市人民政府が定める休業届出の状況」を記載することとされていますので、地方政府による方針が明確になっていない地域では管轄当局の判断に委ねることとなりますが、「その他」を選択して提出すればそのまま受理されるケースもみられるようです。
 
そのため、実務上は窓口での交渉ということになると思われますが、申請が受理されると企業は休眠期間中可能な限りコストをかけず、また法令に準拠した形で法人格を維持することが可能となります。
 
 

②休眠申請手続きの流れ

続いて、実際に申請を行う際の手続きの流れは以下のようになります。
 
  1. 所在地の市場監督管理局での休眠手続きの事前確認
  2. 従業員の解雇もしくは雇用休止に関する協議、オフィス賃貸契約の解約、法律文書送付住所と休眠期間中の連絡者の確保
  3. 休眠申請書類の作成
  4. 所在地の市場監督管理局へ休眠申請
  5. 毎月もしくは毎四半期の税務申告及び毎年の情報公示(※)
 
※休眠期間中も最低限の税務申告と国家企業信用情報公示システムでの毎年の情報公示は必要となります。
 
 

③実質放置状態のリスクは?

一方で、こうした休眠登記をせずに、かつ登記の抹消手続きも行わず放置されている日系企業も相当数あると思われます。
 
こうした実質休眠状態の会社について、そのまま放置しているとどのような問題が生じるのでしょうか?
 
上述の通りルール上は1年以上放置されていると登記が抹消されるのですが、長期間放置されていた現地法人の清算をサポートしたいくつかのケースでは、税務登記が正常に抹消されていない状態では登記機関のシステム上「吊销」と呼ばれる一種の行政処罰を受けたステータスで管理されています。
将来に亘り中国で事業を展開しないということであれば実質的な支障が出ないかもしれませんが、「吊销」状態のままだと法定代表者が一定期間他の企業の高級管理職に就けない、また新規に会社を設立できない、といったブラックリストに加えられたり、万が一中国内に兄弟会社を有するなどの場合には兄弟会社の信用情報にも波及するなどの弊害が生じます。
 
また、放置された状態の現地法人を改めて正式に抹消する場合は、まず税務登記の抹消が必要となります。
 
税務局のシステムでは連続3か月未申告の状態を続けると、自動的に「非正常」に分類され、税務登記証書の使用や発票の発行ができなくなります。それでも是正せず放置していると、「非正常抹消」に分類され、アカウントがロックされ申告もできない状態になってしまいます。
 
これを解除するために、場合によっては長期未申告の罰金を納付した上で「非正常」に戻し、実質休眠状態であった全期間の申告をやり直して未納付となっている税金、延滞税を納付しなければなりません。
これらの未完了の税務事項をクリアして税務登記抹消が完了してはじめて、会社の登記抹消が可能となります。
 
従い、会社を放置しておくと法令違反の状態が続くことになり、改めて抹消するには罰金が課されたり、結局ゼロ申告をやり直したりという手間も生じますし、ましては同一グループで将来中国での事業を再開するような場合に過去の「吊销」状態の子会社の履歴が信用を毀損することとなりますので、休眠制度を活用することでこうしたリスクを回避することが可能です。
 
 
参考規定:中国会社法、市場主体登記管理条例、市場主体登記管理条例実施細則
 
 
 
 

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