中国 サービス取引にかかる増値税の免税制度の内容と実務上の留意点
(中国増値税の簡単解説はこちら)
役務提供における増値税の課税要件は、サービスを受ける側もしくは提供する側のどちらかが中国内にいることとされていますので、中国から国外企業にサービスを提供する場合は増値税が原則課されることとなります。
一方で、そのサービスが完全に国外で消費されるような一部のサービスの輸出については、増値税が免除されるように別途規定されており、ここではサービス輸出にかかる増値税の免税政策の内容と手続き、また実務上の留意点について紹介します。
増値税ゼロ税率対象サービス
増値税ゼロ税率とは、そのサービスの売上高に対する増値税が課されず、かつサービスにかかる仕入増値税額の控除が認められる方法であり、日本の消費税の輸出免税に相当する計算方法です。
以下はゼロ税率の対象となるサービスです。
1)国際運輸サービス
2)宇宙航空サービス
3)国外の組織に対し提供され完全に国外で消費される以下のサービス
研究開発、エネルギー管理、設計、報道映像作品の制作と配信、ソフトウェア、電気回路設計・測定試験、情報システム、ビジネスプロセス管理、オフショアアウトソーシング請負、技術移転
4)財政部及び国家税務局が定めるその他のサービス
増値税免税対象サービス
増値税免税とは、そのサービスの売上高に対する増値税が課されない一方、サービスにかかる仕入増値税額の控除が認められない方法です。仕入増値税額の控除が認められない分、ゼロ税率が適用できるサービスと比較して不利になります。
以下は増値税免税の対象となるサービスです。
1)工事が国外で行われる建設サービス、工事が国外で行われる工事監督サービス、工事・鉱山資源が国外にある工事監察調査サービス、会議展覧場所が国外にある会議展覧サービス、保管場所が国外にある倉庫保管業務、対象物件が国外で使用される有形動産リース業務、国外で提供される放送映像作品の放送サービス、国外で提供される文化体育サービス、教育医療サービス、旅行サービス
2)輸出貨物のために提供する郵便サービス、配送業務、保険サービス
3)国外に対し提供され、完全に国外で消費される以下のサービスと無形資産
・電信サービス
・知的財産権サービス
・物流補助サービス(倉庫保管、配送サービスを除く)
・証明及びコンサルティングサービス
・専門技術サービス
・ビジネスサポートサービス
・国外で出稿される広告サービス
・無形資産(技術以外)
4)運送手段を有さない企業が提供する国際運輸サービス
5)国外企業間の通貨資金融資及びその他金融業務に対して提供する金融サービスであり、当該サービスが国内貨物、無形資産、不動産と関連がないこと
6)財政部及び国家税務総局が定めるその他のサービス
7)ゼロ税率の適用条件を満たすが、簡易課税方式を適用するか、あるいはゼロ税率の適用を放棄し、免税を選択するクロスボーダー課税行為
上記のうち、よく日系企業の本社向け業務委託サービスにおいて免税となるのは、3)のコンサルティングやビジネスサポートです。
コンサルティングは、サービスの実際の受け手が国内の組織または個人である場合、もしくは国内の物品または不動産に対して行うコンサルティングは含まれないとされています。
ビジネスサポートについては、国外に対して提供する代理通関サービス、貨物運輸代理サービス、海員派遣サービス、対外労務協力方式をもって国外に対して提供する人的資源サービスを含み、実際の受け手が国内の組織または個人であるサービスや国内物品、国内不動産に関するサービスは含まれません。
届出書類
納税者が免税の届出手続を行う際、提出すべき届出書類には以下のものが含まれます。
- クロスボーダーの課税行為に係る免税届出表
- クロスボーダーのサービスまたは無形資産の販売に係る契約書
- サービス地点が国外であることの証明書類(適用される場合)
- 購入者の機構所在地が国外であることの証明書類(適用される場合)
- 増値税ゼロ税率の適用を放棄することに関する宣誓書(適用される場合)
- 法定代表者(責任者)が署名または社印押印済の契約書の中国語翻訳(関連する契約書の原本が外国語の場合)
なお、これらの届出書類は届出手続の完了後もすべて保管しなければならず、もし税務当局による事後管理において納税者がこれらの書類を提出できなければ、すでに減免された税額を追納しなければならないことになっていますので、届出後もきちんと保管しておく必要があります。
実務上の留意点
本政策は規定上届出制であるものの、実務上は届出の際に担当者による簡易的な審査が行われ、形式的な要件を満たしていないと届出を受理されないなど、事実上の認可制となっており、地域的にも受理状況に幅が見られるようです。
そのため、免税対象となるサービスに該当するケースであっても、その不確実性から届出を見送っている企業もそれなりにあると思います。
一方、契約上国外の相手方と締結しているサービスであるという理由で、実質的にはサービスの消費が国内で完結している場合にも届出が受理されているケースも存在します。
こうした状況を前もって排除するため、「営業税に代わる増値税を徴収する試験の全面的な実施に関する通知」(財税 [2016] 36 号)では、「国外で完全に消費される」の定義を「サービスの実際の受益者が中国国外におり、かつ中国国内の物品及び不動産と無関係であること、及び無形資産が完全に中国国外で使用され、かつ中国国内の物品及び不動産と無関係であること」として明確化を図っていますが、サービスの実質的な受益者が国外、国内で明確に区分できない場合など、依然として解釈の余地が存在します。
また、免税対象のサービスでは仕入税額の控除が認められませんので、免税対象のサービスと課税サービスのどちらも提供している会社では、仕入増値税の金額がどの提供サービスに紐付いているかを区分するのは困難な場合があります。
これらを適切に分類、或いは合理的な方法により按分できない状態で仕入増値税の控除を行うことは、将来の税務調査において指摘されるリスクを残すことになりますので、注意が必要です。
なお、以前から本規定の適用は新しい契約が締結される都度届出が必要でしたが、同様の契約の更新が新しい契約に該当するのか、また金額だけが更新されるような場合も別々の契約書として届出が必要なのか、といった点が不明確で個々の会社ごとに対応が異なる状況がありました。
これについて、2017年に出された「クロスボーダー課税行為の免税備案等の増値税問題に関する公告」(国家税務総公告[2017]30号)により届出手続き後に発生した同様の課税行為については、再び届出をする必要はないことが明記されています。
参考規定:「営業税に代わる増値税の徴収におけるクロスボーダーの課税行為に係る増値税免税管理弁法(試行)」(国家税務総局公告[2016]29 号)、「営業税に代わる増値税を徴収する試験の全面的な実施に関する通知」(財税[2016]36 号)、「クロスボーダー課税行為の免税備案等の増値税問題に関する公告」(国家税務総公告[2017]30号)
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