中国子会社清算後の未納付税金、親会社に納付義務あり?
現在中国の主要都市においては、会社清算時に簡易抹消登記手続きによる抹消が認められるようになり、以前と比較して撤退時のプロセスはかなりスムーズになっています。
(簡易抹消登記手続きについてはこちら)
特に従来は審査や調査対応に時間を要していた税務登記抹消のプロセスは大幅に簡素化され、綿密な事前準備をしないままで抹消申請を行うことも増えてきています。
それでは、簡素化された抹消プロセスで未納付の税金が見つからないまま抹消が完了した場合、その後で未納付が見つかることはあるのでしょうか?また、その場合誰がそれを弁済するのでしょうか?
簡易抹消による場合、そのプロセスの過程で抹消対象となる会社の債権債務がすでに清算済であることを株主が承諾する必要があります。
そのため、結論から言うと会社清算後に債務が見つかった場合は株主がその出資比率に従って債務を弁済する必要があります。
中国の「税収徴収管理弁法」第52条では、納税者が計算ミス等で過少申告または未納付の状況があれば、税務局は3年以内に追徴課税と延滞金を課すことができます。特殊な状況下では追徴期間は5年まで延長可能とされています。また、意図的な税逃れや脱税の場合、追徴期間は限定されません。
また、最高人民法院による「中国会社法の適用に関する若干の問題の規定(ニ)」第19条、第20条ではそれぞれ、「有限責任会社の株主、株式会社の董事及び支配株主、会社の実質的支配者は、会社が解散した後、会社の財産を悪意を持って処分して債権者に損失を与えたり、法律に則った清算をせずに虚偽の清算報告書を用いて会社登記機関を欺いて抹消登記を行った場合、会社の債務について賠償責任を負うとする債権者の主張に対し、人民法院は法律に従ってこれを支持する。」、「会社の解散は、法律に基づき清算を完了した後、登記抹消を申請しなければならない。 会社が清算されずに抹消登記され、その結果会社が清算できなくなった場合、有限責任会社の株主、株式会社の董事及び支配株主、会社の実質的支配者が会社の債務について賠償責任を負うとする債権者の主張に対し、人民法院は法律に従ってこれを支持する。会社が法律に従って清算されずに抹消登記され、株主または第三者が会社登記機関の抹消登記時に会社の債務に対する責任を承諾した場合、会社の債務について民事責任を負うとする債権者の主張に対し、人民法院は法律に従ってこれを支持する。」としています。
これらの規定により、中国の法令において債権債務が正しく清算されていない状態で抹消された会社においては、その損失を株主が賠償することが定められています。
最近では山東省青島市にある市場開発や設備リースを行うA社の抹消後に、2016年~2021年までの期間に対する税務調査が行われ、過去の課税漏れに対して株主が賠償を求められた以下のような事例があります。
A社は2021年10月8日に簡易抹消登記手続きにより登記が抹消されました。
そのプロセスの中で株主は「登記抹消申請前に債権債務の清算が完了した」、「会社に未納の税金はない」といった承諾書に署名しています。
登記抹消後の2022年1月~5月に管轄税務局が調査したところ、当時営業税から増値税への移行に伴って2017年以降のテナント料について不動産賃貸に係る増値税を5%で適用すべきところ、3%が適用されており、増値税の過少申告となっていたようです。
これにより80%の株式を保有していた支配株主はその保有割合の80%に応じて、増値税本税264,831.64元とその延滞税、都市維持建設税本税13,073.46元とその延滞税、教育附加及び地方教育附加費9,338.20元を15日以内の納付することが命じられました。
これまで登記抹消後に株主である親会社が納税を求められるといった上記のようなケースは日系企業では聞いたことがありませんが、簡易抹消手続きの一般化に伴い、今後そのようなケースが生じないとも言えません。
仮に悪質で脱税と判断されるようなケースでは実質的に遡及機関の制限がないため、延滞金なども多額になってしまいます。
そのため、簡易抹消登記手続きによる抹消を行う場合でも、引き続き税務リスクの自己評価を行った上で抹消手続きを開始することが推奨されます。
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