中国子会社の清算手続き、簡易制度によりどう変わる?

 

2021年7月30日に「中小微企業の市場撤退における簡易抹消登記手続きの改善に関する通知」(国市監注発 [2021]45号)が公布され、これまで一部限定されていた簡易抹消登記手続きの適用対象が上場企業を除く全ての「市場主体」へと拡大され、これまで45日間だった公告期間が20日へと短縮されました。
 
日系企業の中国撤退時に非常に煩雑なイメージのある清算手続きですが、上記の簡易抹消登記手続きによりどの程度簡便化されたのでしょうか?
これまでの同制度の変遷を含めて解説したいと思います。
 

1.簡易抹消登記制度

これまでの中国における簡易登記抹消制度は、2014年の「市場の公平な競争を促進し、市場の正常な秩序を保護することについての若干意見」(国発[2014]20号)による一部エリアにおける試験政策に始まり、2016年の 「企業簡易抹消登記改革を全面的に推進することに関する指導意見」(工商企注字[2016]253号)により2017年3月1日より全国に適用範囲が拡大されました。
 
これにより、設立登記以降経営活動を開始していない企業や、登記抹消申請前の時点で債権債務がない、もしくは債権債務を清算済みの企業は一部の例外を除き、一般の登記抹消手続きに比べて簡素となる簡易抹消登記手続きを選択できることとなりました。
 
簡易抹消登記手続きの概要は以下の通りです。
 

①適用対象

設立登記以降経営活動を開始していない、あるいは登記抹消申請前の時点で債権債務がない、もしくは債権債務を清算済みの有限責任会社、非公司企業法人、個人独資企業、パートナーシップ企業
 
なお、以下は対象外。
  • ネガティブリストに記載される外商投資企業
  • 企業経営異常リストあるいは厳重違法信用喪失企業リストに掲載されている企業
  • 出資持分が凍結、または質権設定、差押え等の状況にある企業
  • 立件調査または行政強制、司法協力が採用され、行政処罰などが見込まれる企業
  • 分枝機構が抹消登記されていない企業
  • 簡易抹消手続きが中止されている企業
  • 法律、行政法規あるいは国務院決定により抹消登記前に承認が必要であると規定されている企業
  • 簡易抹消登記が適用されないその他の状況

②提出資料

(1)申請書
(2)指定代表あるいは共同委託代理人からの授権委託書
(3)全投資家承諾書
(4)営業許可証(原本および写し)
 

③手続きプロセス

まず国家企業信用情報公示システムを通じて45日間の公告を行い、登記機関は同時に同システムから税務局、社会保障局、商務主管部門等の各関連政府機関に報告する。
公告期間中、利害関係者及び関連政府部門は同システムにて異議申し立てをすることができる。
公告期間満了後、登記機関に対し簡易抹消登記を申請し、登記機関は申請資料に対する形式審査を実施、上記の簡易抹消登記適用対象外の企業にはその旨が書面で通知される。公告期間中に異議申し立てがなかった場合は、3営業日以内に簡易抹消登記を行う旨の決定がなされる。
 
なお、簡易抹消登記手続きでは、上記②提出資料の(3)全投資家承諾書により簡易抹消の条件に該当しない場合は投資者が責任を負う旨を承諾し、一般の登記抹消手続きにおいて必要となる董事会決議、清算組の成立、清算報告書の作成、といったプロセスが省略されます。
さらに、登記機関より各関連政府機関に抹消情報が伝達されるため、税務局での登記抹消時に発行される税務清算証明も不要となっています。
 
これまで、日系企業の清算手続きにおいては税務局での抹消手続きが一つの大きな関門であったため、本当に税務局での手続きを省略することが可能なのか?、という点が問題となりました。
 

2.税務登記抹消手続きの簡素化

上記を受け、2018年に公布された「情報共有と共同監督管理の強化に関する通知」(工商企注字[2018]11号)では、以下のように規定されました。
 
税務部門は登記機関から簡易抹消登記情報の報告を受けると、税務情報システムにて企業の関連税務情報を確認し、以下に当てはまる場合は異議申し立てを行わない。
・税務事項が発生したことがない。
・発票を入手したことがなく、未払税金(滞納金)及び罰金もない。
・公告期間満了日前までに発票返納、未払税金の納付等の税務清算手続きを完了している。
 
また、同2018年には国家税務総局により「企業税務抹消手続きの更なる改善に関する通知」(税総発[2018]149 号)が公布されましたが、ここでは簡易抹消登記手続きにより税務清算証明が免除される納税人は以下の通りに限定されることとなり、日系企業が発票を受け取ることもなく開業しない状態で抹消するケースはほとんどないため、実質的に税務局での抹消手続きを省略することが難しいことが明確になりました。
 
市場監督管理部門に簡易登記抹消を申請する納税者に対して、以下の状況のいずれか一つに該当する場合、税務清算証明の取得が免除される。
・税務事項が発生したことがない。
・税務事項は発生しているが、発票を入手したことがなく、未払税金(滞納金)及び罰金もない。
 
しかし一方で、一般登記抹消を申請する納税者に対して、以下が認められることとなりました。
 
市場監督管理部門に一般登記抹消を申請する納税者に対して、税務検査状態でなく、未払税金(滞納金)及び罰金がなく、増値税専用発票及び発票発行専用設備の抹消後で、以下の状況のいずれか一つに該当する場合、「承諾制」を採用し処理することが可能。
即ち、納税者税務登記抹消時に、資料が揃っていなくても承諾書を出せば、税務機関より直ちに税務清算証明を取得できる。
・納税信用等級がA級もしくはB級。
・親会社の納税信用等級がA級もしくはM級。
・省レベルの人民政府が誘致した人材あるいは省レベル以上の業界協会等に認定された業界のトップ人材などが創設した企業。
・納税信用等級評価に含まれない定期定額個人事業主。
・増値税納税基準に達していない。
 
(「税務登記抹消手続きの簡素化制度」についてはこちら
 
これは、要は税金を全て納付した上で、納税信用等級がA級もしくはB級であればすぐに税務登記が抹消できる、という趣旨ですが、感覚的には日系企業の内2~3割くらいはA級で、B級まで含めるとほとんどの日系企業がこれに該当すると思われるため、原則即時抹消を適用することが可能となりました。
 

3.簡易抹消登記制度の拡大

ここで、21年7月に冒頭の簡易抹消登記手続きを更に推進する通知が公布されました。
概要は以下の通りです。
 

①適用対象

債権債務が発生していない、もしくは債権債務を清算済みの市場主体(上場企業を除く)に範囲を拡大する。
簡易抹消登記手続きを申請する場合、未払費用、従業員の賃金、社会保険料、法定補償金、未払税金(滞納金、罰金)等の債権債務が存在しないことを、全投資者が承諾する。
 

②公告期間

簡易抹消登記の公告期間をこれまでの45日から 20日に短縮する。 公告期間満了後、20日以内に市場監督部門に簡易抹消登記の申請を行う必要があり、実際の状況に応じて30日まで延長が可能。
 

③簡易抹消登記プラットフォーム及び手続きの最適化

抹消登記プラットフォームを通じて簡易抹消登記手続きを行うことが可能であり、条件に合致する企業は簡易登記抹消手続きの全プロセスをオンラインで完結することができる。
企業は簡易登記抹消に関する情報を入力後、プラットフォームにより「全投資者承諾書」が自動生成され、機関、事業法人、外国投資者等の特殊な状況を除いて全投資者の実名認証と電子署名を行う。
営業許可証は郵送での返却を認め、営業許可証を紛失した場合は国家企業信用情報公示システムを通じて無料で営業許可証の無効声明の発行が可能である。
 
これにより、これまで簡易抹消登記手続きの対象外だったネガティブリストに記載される外資系企業も適用が制度上可能となり、また公告期間が大幅に短縮されました。
 
 

4.簡易抹消登記制度により清算手続きはどう変わる?

上記の一連の手続き簡素化により、実務上の清算手続きはどのようなプロセスになるのでしょうか?
 
現状の清算時の税務局プロセスにおいては、上述した通り外資系企業が税務清算証明の取得免除、すなわち税務登記抹消手続きを省くことは制度上も事実上も難しく、引き続き税務登記抹消は必須となっていますが、北京市や上海市などの大都市では事前に税務局にて税務上の未了事項を当局システムにて確認してもらい、それを全て完了した上で抹消申請を行うとシステム上即時抹消され、税務清算証明が発行されるケースが多くなっています。
 
そのため、従来は税務局の担当者による審査、もしくは税務調査対応などで数カ月~1年以上を要していたプロセスがビッグデータによるシステムでの未了事項の抽出のみとなり大幅に短縮され、清算時の税務局プロセスは主に税務上の未了事項の確認と対応、清算期確定申告や最終従業員の個人所得税申告とそれに伴う未払税金の納付、場合によっては清算期を対象とした会計監査の実施、といった従来は事前準備であった手続きが大半となっています。
 
税務登記抹消を含めた清算プロセス全体を見ると、簡易抹消登記手続きによる場合は、株主会または株主(会社によっては董事会)による清算決議、従業員解雇、債権債務の解消、税務登記抹消と税務清算証明の取得の上、簡易抹消登記を選択して20日間の公告期間を経て登記抹消する流れになります。
一方で、簡易抹消登記手続きを選択しない場合でも、清算組の届出や公告期間を含めた約1.5~2カ月の間に、リストラや債権債務の解消、税務登記抹消といった主要プロセスが完了しない日系企業は多いと思われますので、実際のところはどちらを選択しても時間的な差異はあまりない場合も多いかもしれません。
 
そのため、結論としては今後も日系企業が中国子会社の清算を行う際には、従来の通り従業員の解雇や税務登記抹消手続きといった主要なプロセスは引き続き必要となりますが、その内税務登記抹消手続きにおいては大半の企業に対して税務事項完了後に即時抹消が認められることとなり、従来と比較してかなり簡便になったと言えそうです。

 

 

 

参考規定:「中小微企業の市場撤退における簡易抹消登記手続きの改善に関する通知」(国市監注発 〔2021〕45号)、「市場の公平な競争を促進し、市場の正常な秩序を保護することについての若干意見」(国発[2014]20号)、「企業簡易抹消登記改革を全面的に推進することに関する指導意見」(工商企注字[2016]253号)、「情報共有と共同監督管理の強化に関する通知」(工商企注字[2018]11号)、「企業税務抹消手続きの更なる改善に関する通知」(税総発[2018]149 号)

 

 

 

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