赴任・帰任時の個人所得税まとめ 中国個人所得税の実務シリーズ③

 

 

ここでは、実務上よく間違いがちな赴任・帰任時の個人所得税の課税関係についてまとめてみたいと思います。

 

①給与

ではまず給与からいきましょう。

赴任時

日本から中国に出向する際に、日本では年末調整を行うことになります。

その際、赴任前に支払われた給与が年末調整の対象となり、赴任後に支給された分は給与の計算期間のうち、赴任前の日本居住分と赴任後の海外居住分で日数按分し、日本居住期間分は日本非居住者の国内源泉所得として20.42%の源泉徴収が必要となります。

ただし、給与等の計算期間が1ヶ月以下で給与等の一部分だけが国内源泉所得である場合、つまり上記のように給与の計算期間中に出向し日数按分が必要になるケースでは、日本居住期間分を国内源泉所得としない特例を適用する場合、源泉徴収する必要はありません。

一方中国では出向者の場合、通常赴任時点から日中租税条約の短期滞在者免税規定は適用できませんので、赴任後に支給された給与は計算期間のうち中国居住部分を日数按分して課税されることとなります。
ただし、実務上は赴任後の支給分から全額中国で納税している処理が一般的と言えます。

(183日ルールの解説はこちら

 

帰任時

帰任の際は、帰任時点で日本の居住者として扱われますので、国内及び国外源泉所得のどちらも納税義務が生じます。
そのため帰国後に支給された給与は全額日本で課税されることとなります。

中国では赴任時と同様に帰任後に支給された給与は日数按分して中国居住期間分は中国で納税する必要があります。
ただしこちらも実務上赴任時の処理と合わせて、赴任後の給与を日数按分せずに全額中国で納税している場合には帰任後の給与は全額日本で申告し、中国では申告しません。

なお、日本で全額課税され、中国でも中国居住期間分が課税される場合には二重課税が発生しますので、その場合は日本での確定申告において外国税額控除により還付が可能です。

 

②賞与

続いて賞与です。
 

赴任時

賞与の場合は賞与の計算期間に基づいて発生主義で申告することになります。
 
仮に2018年3月1日に赴任した出向者が6月に賞与の支給を受け、賞与の計算期間が2017年10月〜2018年3月だったとします。
この場合6ヶ月間の賞与計算期間のうち、最初の5ヶ月間は日本、最後の1ヶ月間は中国にて勤務していたことになります。
 
そのため、受け取った賞与を勤務期間に応じて按分し、日本勤務日数分については源泉徴収により20.42%の課税となります。
 
一方中国でも給与の場合と基本的な考え方は同じですが、注意が必要なのは、賞与の按分計算は日数ではなく月数に基づいて計算するということです。
さらに1日でも中国に滞在していると、その月は中国での勤務月に加えられることになってしまいます。
そのため、上記の例であれば賞与の金額の1ヶ月/6ヶ月となりますが、仮に3月の赴任前の1月と2月にそれぞれ中国に出張で訪れていた場合には3ヶ月/6ヶ月が中国の国内源泉所得として計算されてしまいます。
 

帰任時

そして、帰任後の賞与については中国では基本的に赴任時と同じ考え方で、帰任後に支給される賞与の計算対象期間が中国での居住期間と重なっていた場合には月数按分により中国でも課税されることとなります。

 
対して日本では赴任後の賞与と異なり、帰任後は日本での居住者となりますので、賞与全額に対して課税されます。
二重課税部分は給与と同様に、外国税額控除により還付が可能です。
 
 
年次1回性賞与の場合
 
中国で年次1回性賞与として扱われる賞与が赴任後或いは帰任後に支給された場合も、日本での処理に特に違いはありません。
中国での処理も基本的な考え方は上記の賞与と同様ですが、実務上具体的な計算方法に複数のパターンがありますので、詳しくは以下のコラムをご参照ください。
 
(年1回性賞与の計算方法はこちら
 
 

上記をまとめると、以下の表の通りとなります。

  赴任時 帰任時
日本側の処理 ①給与

日数按分して日本勤務日数分は20.42%の源泉徴収
(給与計算期間中に赴任した場合は特例により源泉徴収不要)

全額が日本で課税(日数按分なし)
(中国二重課税部分は一定の要件を満たせば確定申告時に外国税額控除方式により還付可)

②賞与 日数按分して日本勤務日数分は20.42%の源泉徴収

全額が日本で課税(日数按分なし)
(中国二重課税部分は一定の要件を満たせば確定申告時に外国税額控除方式により還付可)

中国側の処理 ①給与

日数按分して中国勤務日数分は課税
(実務上は全額課税)

日数按分して中国勤務日数分は課税
(実務上は課税なし)

②賞与

月数按分して中国勤務月数分は課税
(1日でも滞在した月を含む)

月数按分して中国勤務月数分は課税
(1日でも滞在した月を含む)

 

 

 

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