中国子会社 移転のパターンと実務上のポイント

 

中国に進出後一定期間が経過すると、ビジネスモデルの再構築や大口取引先の所在地の関係、或いは地方政府から立ち退きを迫られて中国法人の移転を検討する必要が生じる場合があります。
 
法人格を残したまま所在地を移転するだけであれば、単なる手続き上の問題に思えますが、中国の行政管理は省や市、場合によっては区単位の属地主義的な要素が強く、会社が所在する地域の政府からすれば税収や雇用が失われるという点で撤退に近いため、移転といえども簡単ではありません。
 
以下では中国における法人の移転について、3つのパターンと実務上のポイントを解説します。
 

 

パターン① 省、市を跨ぐ移転

省、市を跨ぐ移転の手続きは転入地の商務部門での審査や、工商局、税務局、税関、外貨管理局といった各種行政機関での登記抹消手続きを経て転入地の行政機関で新しく登記を行わなければなりません。
 
その際、特に税務局での税務登記抹消手続きでは会社清算時と同様の税務調査が行われるのが一般的ですが、税源の流出を拒む税務局による調査は長期化することが多く、登記抹消申請から転入地での税務登記が完了するまで数カ月以上に亘り発票の発行ができなくなり、実質営業停止状態となってしまいます。
 
また、税関での登記抹消手続きにおいても免税で機械設備などを輸入している場合には移転時に課税されることとなり、加工手帳の調査等、税関との交渉も難航します。
 
そのため、実務上は移転手続きではなく転入地で法人を新設し、徐々に事業を移管していくアプローチを取ることが多いと思います。
この場合は新設法人にてある程度オペレーションを稼働させてから移行することができるため営業上はスムーズですが、事業の移管期間においては2拠点の運営コストが発生することになるので、移転によるメリットによってそのコストがカバーできるか否か、また事業移管時の譲渡益課税のリスクや本社からの借入金がある場合は外債の借入枠の検討など、事前に入念なプランニングが必要となります。
 

 

パターン② 区を跨ぐ移転

続いて、同一の市の中で区を跨ぐ移転のパターンです。
 
省や市を跨がない移転であれば同一管轄内の行政機関においては単に住所変更の手続きのみを行えばよいことになります。
ただし、肝心の税務局では税収管理が区単位で行われていることから、税務登記抹消手続きにおいてはパターン①と同様の問題が起こります。
 
この点、北京市や上海市などでは同一市内での区を跨ぐ移転について、市の税務当局が特別に通達を出して手続きの簡素化を図っています。
これによると、北京市では転出地の管轄税務局が移転に同意しない場合は市レベルの税務局が裁定を行う手続きを定めています。
また、上海においては、上海市税務局のウェブサイトからオンラインで移転申請を行い、未納付の税金がないこと、未解決の税務案件がないことなどを条件に、30営業日での税務登記抹消と転入地での税務登記に関する手続きを規範化し、手続き期間中の発票発行を保証しています。
 
こうした市レベルの税務当局の手当てにより、以前よりは同一市内での移転は認められやすくなったようですが、中国全体としては腾笼换鸟(籠の中の鳥を入れ替える)、つまり低付加価値産業や税収貢献度の低い企業を追い出して、地域にとって都合のいい企業を誘致する政策を一貫しており、これにより立ち退きを迫られた企業が新たな移転先を見つけられないという別の問題も生じています。
 
さらに外資系企業の誘致を担当する投資促進委員会といった政府部門は区レベルで設置されている地域が多く、例えば上海などでは、ある区の誘致担当者が種々の税金還付を餌に別の区の外資系企業の集積するオフィスビルを集中的に営業して回るなど、以前に増して区単位での誘致合戦が過熱している状況にあります。
 
このような状況下では上述の区を跨ぐ移転手続きの簡素化に関する通達も形骸化してきており、実際に区を跨ぐ移転でも実務上は相当ハードルが高いと言わざるを得ません。
 

 

パターン③ 同一区内での移転

同一区内での移転は同一の管轄税務局内での手続きですので税務登記の抹消は必要ありません。
 
そのため、各行政機関での住所変更により、通常の引越しとして移転することが可能です。
 
 
 
 
 
 
参考規定:『外商投資による会社の審査認可登記管理の法律適用にあたっての若干問題についての執行意見』(工商外企字[2006]81号)、『北京市区(県)間税務登記地争議裁定管理の規範化に関する意見』(京地税征[2007]42号)、『企業の区を跨ぐ移転に関する管理強化の通知』(滬財予[2009]21号)、『「移転抹消税務登記管理弁法」の印刷配布に関する通達』(滬国税征科[2009]11号)、『企業の税務登記の区(県)を跨いだ移転に関する申請ルートの調整に関する公告』(上海市国税・地税[2012]1号)
 
 
 
 

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