年1回性賞与の計算方法は? 中国個人所得税の実務シリーズ②
日本企業では夏、冬の年2回の賞与に加え、特別賞与や業績連動型賞与など年に複数回の賞与が支給されるのが一般的です。
日本の本社から中国の子会社に出向している場合でも、基本的には出向者は本社の賞与の体系が維持されると思いますが、中国での所得税の計算上これらの賞与は単純に給与に合算され、給与の一部として扱われることとなります。
ただし、年1回性賞与と呼ばれる賞与については特別な規定があり、優遇された計算方法を適用することができます。
以下ではその概要と具体的な計算方法をご紹介します。
年1回性賞与とは?
「個人が取得する年1回性賞与等の個人所得税計算方法の問題に関する通知」(国税発「2005」9号)の第1条には以下のように規定されています。
年1回性賞与とは、行政機関や企業など源泉徴収義務者が年度利益や従業員の年間業績等を総合的に評価して支給する1回性の賞与のこと。
さらに、従業員が年1回性賞与の支給を受けた場合は、その金額を12等分した金額に対応する適用税率を基に税額を計算でき、1納税年度につき1人1回のみ当計算方法を採用できるとしています。
所得税の計算方法
では、具体的にどのように計算するのかについて以下のケースを元に考えてみます。
<ケース>
N氏は2017に中国へ赴任し、2018年12月に以下の給与及び賞与をあわせて受領した。
なお、12月の賞与支給対象期間は2018年1月から2018年12月までの12ヶ月間とする。
A:中国支給給与額(手取り) 10,000元
B:日本支給給与額(手取り) 30,000元
C:日本支給賞与額(手取り) 120,000元
上の税率表に当てはめて計算していきます。
支給額は手取りですので、表の右側のグロスアップ計算用の税率を使います。
<給与部分の所得税額>
D:中国源泉12月分給与 10,000+30,000=40,000
E:費用控除額 4,800
F:課税所得額= (DーEー速算控除額)/(1ー税率)+E=(40,000ー4,800ー2,755)/(1ー30%)+4,800 = 51,150
G:個人所得税=(FーE)×税率ー速算控除額= (51,150ー4,800)×30%ー2,755 =11,150
<賞与部分の所得税額>
H : 中国源泉年1回性賞与 120,000
I:1月あたり賞与額 120,000/12=10,000
J:課税所得額= (Hー速算控除額)/(1ー税率※1)=(120,000ー1,005)/(1ー25%) = 158,660
K : 個人所得税※2 = J×税率-速算控除額 = 158,660×25%ー1,005 =38,660
※1 税率は1月あたり賞与額に対応する税率を適用。
※2 費用控除額4,800元は給与の所得税計算上控除済みであるため、賞与での控除は認められない。
個人所得税計 : 11,150 + 38,660 = 49,810
赴任時、帰任時の按分計算
ちなみに、上記のケースで中国への赴任が2018年4月1日からの場合はどのように計算すればいいのでしょうか?
というのも、12月に支給された賞与の計算対象期間は同年1月から12月までですので、対象期間が日本での勤務期間と中国での勤務期間の両方にまたがっています。
この場合は、中国に滞在した日数が1日でもある月は中国での源泉所得として、月数按分が必要となります。
その場合は以下のように計算することとなりますが、上記の通達(国税発「2005」9号)においては具体的な計算方法まで明確に規定されていないため、この計算は実務上主に2つのパターンがあります。
<賞与部分の所得税額>
計算パターン①
H : 中国源泉年1回性賞与(月数按分) 120,000×9/12ヶ月=90,000
I:1月あたり賞与額 90,000/12=7,500
J:課税所得額= (Hー速算控除額)/(1ー税率)=(90,000ー555)/(1ー20%) = 111,806
K : 個人所得税= J×税率-速算控除額 = 111,806×20%ー555 =21,806
個人所得税計 : 11,150 + 21,806 =32,956
計算パターン②
H : 中国源泉年1回性賞与(月数按分) 120,000×9/12ヶ月=90,000
I:1月あたり賞与額 90,000/9=10,000
J:課税所得額=(Hー速算控除額)/(1ー税率)=(90,000ー1,005)/(1ー25%)= 118,660
K : 個人所得税= J×税率-速算控除額 = 118,660×25%ー1,005 =28,660
個人所得税 : 11,150 + 28,660 =39,810
上記の2つの計算方法の違いは、年1回性賞与の税率を確定する際に、賞与額を中国滞在期間で月数按分した金額を更に12で分割するか(パターン①)、中国滞在月数で分割するか(パターン②)の違いです。
パターン①の方が税額は小さくなるので会社にとっては好ましいですが、実務的には例えば北京ではパターン①、上海ではパターン②が採用されているのが一般的なようです。
なお、帰任後に支給された賞与についても同様の月数按分により中国勤務期間分は中国で納税する必要があります。
ただし帰任後賞与に対しては費用控除の4,800元は原則控除できない点に注意が必要です。
夏、冬の2回適用できる?
日系企業は6月と12月に1回ずつ賞与が支給されるのが一般的ですが、この半期賞与に年1回性賞与の計算方法を適用できるのでしょうか?
これは上述した通り、通達(国税発「2005」9号)によると1人につき年1回までと規定されているため、どちらにも適用することはできません。
では、どちらか一方だけであれば適用可能かというと、本通達の第5条には年1回性賞与以外の半年賞与、四半期賞与、残業奨励金、早朝勤務奨励金、勤務考課奨励金には当計算方法は適用できないこととされているため、厳密には日系企業の半期賞与やその他の年複数回支給される賞与は1回分であっても適用できないものと思われます。
ただし実際は多くの会社が特定の月の賞与については選択的に年1回性賞与として計算をしており、税務当局も適用月を継続して運用することを条件に事実上容認している状況のようです。
本通達の趣旨からしても、中国の月ごとに累進課税が適用され、毎月所得税が確定する仕組みにおいて、一時的な賞与をその月の給与に単純に合算すると、賞与を支給していない会社と比べて課税上著しく不利になりますので、本通達によって給与課税との公平性を確保しようとしていることを考えると、年複数回賞与を支給する会社にあっては、そのうちの少なくとも1回分について当計算方法を適用するのは十分許容されるべきものであると思われます。
参考規定:「個人が取得する年1回性賞与等の個人所得税計算方法の問題に関する通知」(国税発「2005」9号)
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