中国 研究開発費の追加(割増)控除の概要と税務調査事例
1.研究開発費の追加控除
1.1. 概要
新技術、新製品、新工程の開発のために生じる研究開発費用は、当期損益に計上する場合、実際発生額に加えて50%を追加して控除することができます。
無形資産に計上する場合は、無形資産原価の150%を償却できます。
無形資産に計上する場合は、無形資産原価の150%を償却できます。
1.2. 適用できる研究開発費用の内容
- 研究開発活動に直接従事している従業員の労務費用(研究人員、技術人員、補助人員、外部から招聘した研究開発人員を含む)
- 研究開発活動に直接投入する費用(消耗品、燃料など)
- 研究開発活動に用いる機器、設備の減価償却費
- 研究開発活動に用いるソフトウェア、特許権、非特許技術等の無形資産の償却費
- 新製品設計費、新工程規定制定費、新薬の研究・製造に係る臨床試験費、開発技術の現場試験で発生する研究開発活動に関する各種費用
- 研究開発活動に関連するその他の費用(技術図書資料費、資料翻訳費、専門家コンサルティング費など、追加控除可能な研究開発費総額の10%を上限)
- 財政部及び国家税務総局の規定するその他の費用
1.3. 適用できない業務内容
また、適用できない業務は以下の通りです。
- 企業の製品(サービス)の一般的なアップデート
- 公表されている研究開発成果の直接利用(例えば公開された新たな工程、材料、装置、製品、 サービス、知識等の直接採用)
- 製品の商品化後、企業が顧客のために提供する技術サポート
- 既存の製品、サービス、技術、材料、工程プロセスに対する重複した又は簡易な変更
- 市場調査、効率性調査または管理研究
- 工業(サービス)プロセス又は一般的な品質管理、テスト・分析、修理・メンテナンス
- 社会科学、芸術、人文学分野の研究
1.4. 適用できない業種
- タバコ製造業
- 宿泊業・飲食サービス業
- 卸売業・小売業
- 不動産業界
- リース及びビジネスサービス業
- 娯楽業
- 財政部及び国家税務総局が規定するその他の業種
1.5. その他
- 研究開発活動により発生したスクラップ、不良品、中間製品を販売したことによる特殊収入は研究開発費用から控除しなくてはならない。
- 研究開発の失敗により発生した費用も追加控除の対象となる研究開発費用に該当する。
- 追加控除の対象となる委託研究開発による研究開発費用は、委託者が受託者に実際に支払った委託費用であり、受託者側では追加控除の対象に含めない。
1.6. 科学技術型中小企業の特別規定
更に、科学技術型中小企業に該当する場合には50%ではなく、その研究開発費の75%の追加控除、無形資産原価の175%の償却が認められます。
科学技術型中小企業の該当条件は以下の通りです。
- 中国国内(香港、マカオ、台湾地区を含まない)で登録された居住者企業であること
- 従業員数が500人を超えていない、かつ売上高が2億人民元を超えていない、かつ資産総額が2億人民元を超えていないこと
- 企業の提供する製品とサービスが、国家による禁止類プロジェクト、制限類プロジェクト、淘汰類プロジェクトのいずれにも該当しないこと
- 企業が申請を行った当年度および前年度において、重大な安全上もしくは品質上の事故、環境関連の重大な違法行為、科学技術研究関連の重大な信頼失墜行為を生じさせておらず、かつ企業経営異常リストおよび厳重違法不信用企業リストに記載されていないこと
- 企業が科学技術型中小企業評価指標に基づき行った総合評価の採点結果が60点を下回らず、かつ科学技術人員の指標採点が0点でないこと
上記の1〜5をすべて満たした上で、下記の条件のいずれかを満たしている必要があります。
- 有効期間内のハイテク企業資格証書を有している
- 直近5年間において、科学技術関連の国家レベルの賞を上位3位以内で受賞している
- 認定された省・部レベル以上の研究開発機構を保有している
- 直近5年間において、国際基準、国家基準あるいは業界基準の制定を主導した
適用可能期間は2017年1月1日~2019年12月31日までとなっています。
(2018年7月25日追記)
7月23日の国務院常務会議において、75%追加控除の適用対象が科学技術型中小企業から全ての企業に拡大されています。
2.税務上のポイント
2.1. 税務調査事例
①研究開発人員の人件費
研究開発に従事する従業員の人件費が過大に計上されている疑いがあり、各研究開発人員との雇用契約や各種業務内容が精査されました。結果として、研究開発に直接従事しているとは言えない従業員の人件費まで追加控除の対象としているという指摘があり、更生となりました。
このほか、人件費には、給与、賃金、養老保険、医療保険、失業保険、労災保険、生育保険及び住宅基金が含まれるところ、研究開発人員へ支給した各種手当はこれに含まれないとして否認されることとなりました。
②研究開発活動に関連するその他の費用
「研究開発費用の税前加算控除政策の整備に関する通知」(財税[2015]119号)においては、以下の費用がその他の研究開発関連費用として加算控除の対象に含まれると規定しています。
翻訳費用、専門家コンサルティング費用、研究開発に関わる保険料、研究成果の分析、評価、論証、査定、実験費用、知的財産権の申請、登録、代理費用やその他の出張旅費、会議費など。
これに基づき2015年度から各種費用を追加控除の対象としていたところ、上記の「財税[2015]119号」の適用対象期間は2016年からであり、2015年度は以前の研究開発費用加算控除を規定している「財税[2013]70号」の適用範囲であるため、上記の各種費用の追加控除は認められないとして否認されました。
2.2. 所感
研究開発費に関する優遇税制は、追加控除の対象となる費用の範囲が曖昧であり、これまでも当局担当者の主観によって否認されたり、事前に問い合わせても明確な回答が得られないなど、税務調査リスクの高い論点でした。
そのため、2017年11月に公表された「研究開発費用税前加算控除集計範囲に関する問題についての公告」(国税[2017]40号)において、これまで不明確であった適用範囲については一部が明確化され、更に対象範囲が拡大しており、中国政府が引き続き企業の研究開発活動を奨励していきたい姿勢が見てとれます。
日系企業の中には中国での研究開発に関連する支出を増やしている企業も多く、各支出を精査すると勘定科目上は研究開発関連の支出ではなかったり、研究開発関連の支出であると認識していなかったりする場合でも、その中に研究開発費の追加控除の条件に合致するような支出が存在するケースも少なくありません。
一方で、「研究開発費用の税前加算控除政策の整備に関する通知」(財税[2015]119号)においては、税務当局が当政策への管理を強化し、追加控除を適用している企業への年度検査が20%を下回らないよう明記されており、名目上研究開発関連費用であっても実質的には該当しない場合は否認されることとなりますので、定期的に自社の研究開発関連費用の支出について見直されることをお勧めいたします。
参考規定:「研究開発費用の税前加算控除政策の問題に関する通知」(財税[2013]70号)「研究開発費用の税前加算控除政策の整備に関する通知」(財税[2015]119号)、「研究開発費用 税前加算控除政策の問題に関する公告」(国税[2015]97号)「科学技術型中小企業の研究開発費用 税前加算控除比率に関する通知」(財税[2017]34号)、「『科学技術型中小企業の評価弁法』の公布に関する通知」(国科発政[2017]115 号)、「2016年度企業研究開発費用の税前加算控除政策企業所得税納税申告問題についての公告」(国家税務総局[2017]12号)、「科学技術型中小企業の研究開発費用 税前加算控除比率の問題に関する公告」(国税[2017]18号)、「研究開発費用税前加算控除集計範囲に関する問題についての公告」(国税[2017]40号)、企業所得税法
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