中国子会社 中国人従業員の不正・資産横領の典型パターンと調査手法

中国では日本では考えられないような従業員による不正行為や資産の横領が日常的に起こっています。

その中でもやはり不正の温床として真っ先に挙げられるのは購買活動における不正行為です。以下では企業の購買活動における従業員不正の典型的なパターンをご紹介します。

 

パターン①キックバック 被害額◉

中国従業員不正典型パターン① キックバック

これは一番典型的な不正のパターンです。

仕入先から購買担当者が物品を仕入れる際に、商品代金の一部をキックバックとして戻してもらうという取引です。

 

パターン②ダミー会社(「影子公司」)を使った架空取引 被害額◉◉

中国従業員不正典型パターン② ダミー会社(「影子公司」)を使った架空取引

パターン①が発展すると、この形態になります。

企業の購買担当者は自分の親戚や友人が所有するダミー会社に発注し、そこから物品を仕入れます。
このダミー会社は正規の業者から必要となる物品を購入するわけですが、当然購入価格とは乖離する価格で売却し、このダミー会社をお金を落とす箱として利用するわけです。

こうした親族のダミー会社を利用するというのは日本ではあまり見られませんが、中国では文化的な背景もあり、極めて近しい人間関係を「関係(グワンシー)」と呼んで非常に大切にしますので、よく見られる不正のパターンです。
中国では近しい間柄の人を「自家人」、そうでない人を「外人」と呼んだりしますが、仮に取引先からキックバックを受領していたとしても、個人の関係性としては不安定な「外人」からのキックバックよりも、「自家人」で形成された鞘抜きの仕組みを確立することによって不正な所得をより固定化したいと考えるようです。

その結果、パターン①のように発注額の一部をキックバックとして戻してもらうのではなく、「関係(グワンシー)」のある親族が設立したダミー会社に仕事を発注し、そこから更に取引先に発注するという二重構造にすることにより差額をダミー会社に落とすような取引を講じます。

更には、これがエスカレートして、そもそも発注する仕事がないのに、ダミー会社に仕事を発注し、その金額をそのまま懐に入れるということもあります。

 

パターン③企業不正マフィア(团伙舞弊)による搾取  被害額◉◉◉

中国従業員不正典型パターン③ 企業不正マフィア(团伙舞弊)による搾取

これはさらにパターン②からの発展型として、このダミー会社が肥大化し、そこに遠い「関係(グワンシー)」のある人たちが群がり、会社内部の不正に関与する仲間も次第に増えることで不正行為が一大利権化してしまっている状態です。

こうした企業に群がってくる人たちを中国では「团伙舞弊」(企業不正マフィア)と呼んだりもします。

このパターンは中国の地方などにある外資系企業で、本社からの十分な監視が行き届いていない状況下で起こり得ます。筆者の実感では、定期的に不正調査を実施する欧米系企業に対し、日系企業は対策が後手に回っており、かなり大胆な不正な横行しているケースも多いように思われます。

 

不正調査

上記のような不正は、金額が大きく目立つようなものでなければなかなか見つけ出すのが困難なケースも多いため、調査にあたってはまず購買活動の取引データを綿密に分析する必要があります。

以下のような不正の兆候を取引の中から抽出していくことになりますが、特に上記のようなキックバックから派生するケースでは取引価格が市場価格と乖離していないかといった点が注目すべきポイントとなります。

不正の兆候

  • 発注から検収が短期間である
  • 特定の取引先への短期間での大量発注
  • 特定担当者による一時的な大量発注
  • 同一仕入先への毎月固定額での発注
  • 単価マスターと異なる金額での発注
  • 見積金額と実際金額の大幅な差異
  • 丸い数字での購入
  • 相手先担当者が同じ職責に長く留まっている
  • 支払先がマスター登録どおりでない
  • 複数に分かれて支出されている
  • 上長による決済が必要な金額付近の取引が多い

上記の分析によって特定の対象人物や対象取引を洗い出し、決済担当者と取引会社との「関係(グワンシー)」を調査するなど、より詳細な調査フェーズへと移っていきます。

より踏み込んだ不正調査において、中国での不正調査の難しいところは、現場調査で必須となる対象人物の身辺調査などを一般人が実行することは厳しく制限されており、証拠を押さえるような踏み込んだ調査は厳密には法的に禁じられている点です。

ただし、不正調査はその結果をその後の会社経営のガバナンスに役立てていかないと意味がありませんので、調査結果を受けてどのような措置を講じるかについてある程度方向性を持っておく必要があります。

調査の位置付けとして単なる実態把握に留めるのか、或いは不正に関与した従業員の刑事告訴、解雇等の措置を講じるのかによって必要となる証拠レベルが異なりますので、その後の対応策の協議に応じて法的に可能な範囲で現場調査の作業レベルを検討していくこととなります。

刑事告訴に至るような大きな不正金額に上る場合は、事前に地域の公安局(警察)に相談し、協力を要請するといった方法も場合によっては有効になります。

 

 

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