董事・総経理の課税関係まとめ 中国個人所得税の実務シリーズ⑥

 

 

日本での役員報酬は所得税法上給与所得として申告することになりますが、中国では役員報酬は役務報酬所得として給与所得とは異なる20%〜40%の税率で課税されることとなります。
 
そして、中国での役員は、董事や董事長のことを指します。
日本の社長や副社長に相当するような総経理、副総経理などのマネジメント層のことは高級管理職と呼び、こちらは役員には該当しないこととされています。
 
(董事や総経理の役割はこちら
 
さらに、一定期間中国に出向する出向者の場合は出向期間中給与の全額が中国で課税されるのが原則ですが、日中租税条約においては役員報酬やそれに類似する報酬については会社の所在地での課税権を認めています。
 
日中租税条約第十六条
 一方の締約国の居住者が他方の締約国の居住者である法人の役員の資格で取得する役員報酬その他これに類する支払金に対しては、当該他方の締約国において租税を課することができる。
 
ちなみに、中国が各国と締結している二国間租税条約の役員報酬規程には2種類あり、役員報酬のみに言及している条約の場合、実務上Regular DTA (Double Taxation Agreement)と呼ばれます。
一方役員報酬に加え、トップレベルの経営層の職位に基づいて支給される報酬についても条文に加えている場合、Special DTAと呼びます。
 
中国がSpecial DTAを結んでいる国はカナダ、メキシコなど複数ありますが、日本との租税条約ではRegular DTAを採用しているため、高級管理職への報酬は会社の所在地国での課税権を認める報酬の範囲に属さないと解されます。
 
それでは、上記を前提に日本の本社から中国子会社へ董事や総経理が赴任し、また日本での役員の職務も兼務しているようなケースについての課税関係をまとめてみましょう。
 

パターン① 総経理

中国に総経理として赴任する場合、上記の通り総経理は中国では役員に含まれませんので、報酬は通常の給与所得として申告することとなります。
ただし日本での役員の職位を維持したまま中国に出向し、日本で役員報酬を支給されている場合には、それが実質的に使用人である場合を除き原則として日本で20.42%の源泉徴収が必要となります。
 
 

パターン② 董事

続いて中国子会社の董事の職位に就く場合です。
 
董事や董事長は董事会を組織し、会社の重要事項を決定したりするのが主たる役割であり、会社の日常業務に関与する事は基本的にありません。
そのため、中国の董事あるいは董事長は出資元である日本本社にて勤務しながら兼務しているケースが一般的ですが、その場合は日本で受け取っている給与は日本居住者として日本で課税を受けることになります。
 
中国で支払われる董事報酬は中国で課税が発生しますが、董事報酬を支給するのが一般的な欧米系企業と異なり、日系企業では本社勤務の董事に対して董事報酬を支払っているケースはあまり多くありません。
 
 

パターン③ 総経理+董事

最後は総経理と董事を兼務するパターンです。
 
この場合は総経理としての給与と董事としての役員報酬を明確に切り分けることが難しく、また両者の税率の差をうまく利用して支給額を分散することにより税回避が可能なことから、総経理と董事の職務を兼務している人に支払われる報酬は全て給与所得として所得税計算が行われることになっています。
 
日本の役員を兼務しており、日本で役員報酬をもらっている場合に日本で源泉徴収の必要がある点は上記パターン①と同じです。
 
ただし、日本からの役員報酬のみで中国法人の日常的な経営、管理業務に従事していたり、中国常駐で日本での役員としての実態がない等の場合には、日本で受け取る役員報酬の中国勤務期間相当分あるいはその全てが中国の国内源泉所得として課税される可能性もありますので注意が必要です。
 
 
参考規定:「個人所得税若干の政策執行問題を明確にする通知」(国税発(2009)121号)
 
 
 
 

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