中国子会社 減資による資金還流は可能?そのメリットとデメリットとは?

 
中国子会社から日本本社に資金を還流する方法として、配当やサービス・無形資産の対価として回収する以外に減資という方法もあります。
 
特に当初の投資額の内、固定資産投資の割合が大きい製造拠点等では、資産の減価償却に伴い、配当可能利益を大きく上回る余剰資金が滞留している状況も少なくなく、昨今の地政学リスクによるデリスキングへの関心の高まりや米中金利差の影響も相まって、中国の余剰資金を日本或いは他国のグループ内拠点にて活用する手法として、減資が注目されています。
 
以下では減資の手続きや留意事項、またそのメリットとデメリットについて解説します。

1.減資とは?

まず、減資とは資本金の額を減少させることを言いますが、中国の会社法上減資とは会社の「登録資本」の減少を指します。
従い、厳密には「登録資本」の減少を伴わない「払込資本」のみの減少は会社法における減資とは区別する必要がありますが、実務上は「登録資本」の減少とセットで実行されることが通常求められますので、以下では「登録資本」の減少を伴う「払込資本」の減少を想定しています。
 
その実質的な効果に着目すると、減資は更に資本金の株主への払戻しを伴う有償減資と払戻しを伴わない無償減資に分類されます。
本社或いは第三国への資金還流を目的とする場合には有償減資にて払戻しを行う必要がありますが、無償減資にも減少した資本金を以て欠損を補填することにより、将来の配当の早期実現が可能になるといった側面があります。
 
その他、特定の株主の出資額に限って減資を行うことにより、持分比率を変更したり撤退する際のオプションとして活用されるケースもあります。

 

2.減資手続き

中国における外資企業の減資手続きは、2016 年 10 月 1 日に、ネガティブリスト対象業種でなければ商務主管部門の許認可制から届出制へと変更され、2020 年 1 月 1 日の外商投資法施行に伴い、外資企業の減資を原則として認めないとする法律も廃止されました。

そのため、基本的な手続きも内資企業と同様となりますが、有償減資による払戻しの際に本国への対外送金が必要になる点が内資企業と異なります。
 
具体的な手続きの流れは以下の通りです。
 
  1. 董事会による減資及び定款変更方案の策定
  2. 貸借対照表と財産目録の作成
  3. 3分の2以上の議決権を有する株主による減資及び定款変更の決議
  4. 減資決議日より10日以内に債権者に通知し、かつ30日以内に新聞公告
  5. 債権者の要求(もしあれば)に応じて債務を弁済又は相応の担保を提供(債権者は会社からの減資の通知を受けた日から30日以内、通知書を受け取っていない場合は公告日から45日以内に提出が必要)
  6. 公告日から45日後以降に会社登記機関にて登記変更手続き
  7. 税務局及び外貨管理局にて登録資本金額の変更

    以下、有償減資の場合

  8. 税務局にて対外支払税務届出(5万USD以上の場合)
  9. 外貨管理局(取引銀行)に必要書類の提出後、国外送金

 

3.課税関係

有償減資の際の課税関係について、払込資本のみの減資か、留保利益の処分を伴うものかを分けて考えます。
仮に特定の株主の払込資本が1000万元で、それを500万元に減資することにより資本減額分の500万元を払戻しする場合には当株主の所得は認識されず、従って課税は生じません。
 
もし株主による回収額が例えば700万元で、当株主に帰属する会社の留保利益が300万元ある場合は、留保利益の内減資割合に相当する部分、つまり300万元×減資比率50%(500万元/1000万元)=150万元をみなし配当として企業所得税10%が源泉課税されます。
 
また、残りの50万元(=700万元ー500万元ー150万元)は持分譲渡所得として同様に10%の源泉税が課されます。
 
一方、無償減資に関する企業所得税上の課税関係については明確な規定はないものの、中国では出資の払戻しを伴わない減資(無償減資)は一旦未払金を計上した上で、株主によって未払金の債務免除を受けたものと見なし、その年度の益金に算入すべきとする解釈が一般的です。
 
従い、その益金参入額が過年度の繰越欠損金を減少させる効果を有するとともに、繰越欠損金を超える金額については当期の課税所得として企業所得税の課税対象となります。
 

 

4.留意事項

減資を実行する前に確認しておきたい留意事項としては以下の点が挙げられます。
 
  • (地方政府や開発区、合弁・合作相手との)減資に関連する違約責任の有無
  • 投資総額及び登録資本金に基づく税優遇措置
  • 関連法令に基づく登録資本金の最低要件がある特殊業種に該当するか否か
  • 政府または取引先の入札参加に関する制限その他の事業上の影響

 

5.減資のメリット

減資によるメリットですが、有償減資の最大のメリットは企業の未処分利益を超えて余剰資金を還流させることができる点です。
冒頭での説明の通り、比較的多額の預金を1回で国外に移管することができるため、デリスキングと資金効率を高めることができ、将来中国での投資が必要になる場合は再度増資することも可能です。
 
無償減資の場合も、欠損補填により将来の配当時期を早められるという点で実質的に同様の効果が期待できます。
 
また有償無償を問わず合弁事業からの撤退オプションとして減資による方法も考えられます。
 
特に撤退時の持分を有償で合弁相手方に譲渡する場合、合弁相手方は自社ではなく合弁会社の余剰資金を活用して譲り受けることができる点がメリットと言えます。
ただし、現在改正が審議されている会社法の第三回改正草案においては、持分比率に応じた按分による減資しか認められず、特定の株主に偏重した減資が認められない旨が明記されています。従い、会社法改正以降は減資による合弁事業からの撤退はできなくなるものと思われます。
 
 

6.減資のデメリット

一方、減資のデメリットとしては以下の通りです。
 
まず、「2.手続き」にて記載の通り、外資企業の減資は内資企業同様届出管理となっていますが、実行については依然として管轄当局の判断が影響します。特に赤字企業の場合は、債務弁済能力や事業の継続性について工商部門や取引先、また従業員からの疑念が生じたり、外資企業からの資金流出に対して所在する開発区や園区、または招商部門担当者からの反発を招く可能性もあります。
 
本コラム執筆時点において中国の対内直接投資は低調に推移しており、中国からの国外送金に際して外貨管理局(取引銀行)の処理プロセスが長期化する可能性も懸念されます。
 
手続き面では配当による回収と比較すると債権者保護手続きや公告等が必要となるためやや煩雑と言えます。
債権者からの要求があれば債務を弁済又は相応の担保の提供が必要となります。
 
税務上は減資により合弁会社の持分比率や株主構成が変わる場合、減資前持分の譲渡取引と見なされる可能性があります。
譲渡される持分の公正価値が減資による回収額を上回っている場合、税務上の公正価値にて課税が生じるリスクについても予め検討をしておく必要があります。

 

 

 

 

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