2024年から増税?中国個人所得税の24年改正とその影響とは?

 

これまで中国の個人所得税制度においては、年1回の賞与については通常の給与とは異なる特別な計算方法を適用することが認められていたり、外国人はいくつかの手当が免税扱いとされていたり、と優遇規定が定められていました。
 
しかし、これらの優遇規定は2019年1月1日から施行された個人所得税法の改正に伴い当初2021年末までの時限措置とされていましたが、そこから更に2年延長され、2023年末までは適用可能な状態となっています。
 
更なる延長措置が講じられない場合は、2024年からは上記の優遇措置が失効することとなりますが、出向者の個人所得税に対する金額的な影響はどの程度あるのでしょうか?
 
 

24年1月1日から廃止される優遇措置

  1. 年1回性賞与
    居住者が取得した年1回性賞与は、当年度の総合所得に合算せず、12ヶ月で割った金額を総合所得月次税率表に当てはめ、分離計算ができる。
     
    計算公式は下記の通り:
    納税額=年1回性賞与×適用税率ー速算控除額
     
    なお、年1回性賞与を当年度の総合所得に加えて計算する方法を選択することもできる。
    (年1回性賞与の詳しい計算方法はこちら

  2. 外国人に支給する手当
    条件に合致する以下の手当に対して、免税処理を適用できる。
     
    ・住宅手当(水道光熱費、駐車場代は含まない)
    ・食事手当
    ・クリーニング手当
    ・引越手当
    ・国内外出張手当
    ・ホームリーブ手当(年2回まで、本人分のみ)
    ・語学研修手当(本人分のみ)
    ・子女教育費手当
     
    なお、上記免税処理の他に専項附加控除を選択して適用することもできるが、同時に両方を享受できない。また、選択適用後は同一年度において変更もできない。

  3. 上場企業の株式インセンティブ
    居住者がストックオプション等の株式インセンティブを取得する場合、当年度の総合所得に合算せず、単独で総合所得税率表を適用し分離計算ができる。
     
    計算公式は下記の通り:
    納税額=株式インセンティブ収入×適用税率ー速算控除額
     
    なお、居住者が年に2回以上株式インセンティブを取得する場合、合算して上記の計算方法により計算する。
 

廃止に伴う影響は?

上記の3項目の内、多くの日本人出向者に関係するのは1と2です。
 
その中で、2の各種手当の内、特に金額が大きいのは家賃に相当する住宅手当になるかと思いますが、外国人の住居費については、上記2の住宅手当を含む各種手当の免税処理が1994年、1997年にそれぞれ明文化される前の1988年から免税扱いとされていました。
すなわち、理論上は各種手当の免税処理が失効したとしても、それ以前に定められた住居費の免税処理の規定は引き続き有効であり、これを根拠に免税とすることが可能だと考えられます。
 
実際のところは各地で解釈が異なっており、各種手当の免税処理を廃止する趣旨からして、それ以前の住宅手当の免税も必然的に廃止されるべきものである、と解釈する税務局もあるようです。特に、家賃全額の手当ではなく、一定額を上限とする定額手当の場合には全額否認されるリスクが高まります。
 
いずれにせよ各種手当の免税処理が失効した後の数年間は住居費の取扱いが安定せず、個々に管轄税務局に問い合わせた上で処理を決定する、という運用になるかと思われます。
 
住居費の免税処理を定めた1988年の通達は以下の通りです。
 
「中国の外国人従業員の住居費の税額控除に関する通知」 (財税外字[1988]21号)
~抜粋~
1.外商投資企業および外商駐在機構が、外国人従業員に無料で居住するための住宅を賃貸または購入する場合、その従業員の給与所得に含めないことができる。 企業所得税の納税において、購入した家屋の減価償却費及び賃借した住居の賃料は費用として計上できる。
 
2.外商投資企業および外商駐在機構が、外国人従業員に定額の住宅費を支給する場合、費用として計上することができるが、当該従業員の給与所得に含まれる。 当該従業員が住宅費の正確な証明資料を提出できる場合は、その実際の支出額を課税所得から控除することが認められる。
 
 

増税の影響額は?

それでは、2023年までの各種免税手当と年1回性賞与の計算が適用される場合と比較して、24年以降にそれらが失効して家賃も含めて課税所得となる場合、家賃のみは免税のままとなる場合のそれぞれにおいてどのような影響がでるのでしょうか?
以下では具体的なモデルケースを元に税額上の影響を算出してみます。
 
下記のようなケースを考えてみましょう。

(想定条件)

勤務地:上海市
①給与(中国支給給与、日本支給給与、日本での社会保険料も合算):手取月額5万元
②家賃:月額2万元
③子女教育費(小学生1人):学費月額1万元
④賞与:夏と冬それぞれ手取4万元
⑤一時帰国費用:年2回でそれぞれ1万元
※日中社会保障協定の適用により、中国年金制度への加入は免除(年金以外の社会保険には加入)
 
まず23年度までの税額計算ですが、上記のうち②家賃、③子女教育費、⑤一時帰国費用は免税扱いとなり、課税所得に含まれません。また、④賞与については夏か冬の賞与どちらか一方に優遇計算を適用できます。
 
計算式等の詳細は省きますが、上記を前提にした年間所得税額は給与所得に対する税額が158,585元、年1回性賞与に対する税額が8,656元の合計167,240元です。
 
それでは24年からはどのように変化するのでしょうか?

家賃を課税所得として扱うケース

上記の免税手当は廃止され、専項附加控除のみが適用できることとなり、加えて賞与の優遇計算も無くなります。
(専項附加控除の説明はこちら

外国人が適用できる専項附加控除は主に家賃控除と子女教育費控除の2つになりますので、北京市や上海市等の直轄市、またはそれに準ずる大都市を前提にそれぞれ月1500元、1000元となります。
つまり、年間の給与所得には①給与に加え、②家賃や③子女教育費も含まれ、また年2回の④賞与と⑤一時帰国費用も加えられた総額をグロスアップして算出することとなります。
一方、控除額は基礎控除の60,000元に加え、専項控除の医療保険料と失業保険料、また上記の専項附加控除で計100,256元です。
 
その他の控除項目もありますが、外国人にとってはあまり一般的でないため、ここでは加味しません。
 
これらから算出される税額は年間462,873元となります。
 
つまり、このケースでは23年まで167,240元だった所得税額が295,633元(177%)増加することとなります。
 

家賃を免税所得として扱うケース

最後に、上記の内、「中国の外国人従業員の住居費の税額控除に関する通知」 (財税外字[1988]21号)を適用して住居費は免税として取扱う場合についても試算してみます。
 
この場合、年間給与所得には②家賃が含まれませんが、一方で課税所得から支出される家賃負担がありませんので、専項附加控除の家賃控除は使えなくなります。
結果として算出される税額は年間281,236元となります。
 
つまり、24年以降も住居費が免税になるケースでは23年まで167,240元だった所得税額が113,996元(68%)増加することとなります。

 

 

 

 

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