中国内のOEM契約 部品や設備、ノウハウの無償提供は売上と見なす?

 

中国にある子会社が、他の中国企業に対して自社製品の製造委託(OEM)をする際に、製造に必要となる部品や設備、ノウハウなどを有償で提供するケースと、無償とするケースがあります。
全ての部品や設備、ノウハウを無償で支給或いは貸与する場合、OEM契約では原則加工賃のみを支払うこととなります。
 
こうした無償支給は、受託側が単独で部品などを調達するよりも委託側が大量に購入した方が有利な条件で調達できることや、委託側にとって最終製品の品質を維持しやすいといったメリットもあり、一般的に採用されている取引形態です。
 
では、こうした部品や設備、ノウハウの無償取引では、それ自体からは金銭の受取りが発生しないことから、税務上も特に売上を認識する必要はないのでしょうか?
 
企業所得税と増値税に分けて、それぞれ考えてみたいと思います。
 
 

①企業所得税

まず、企業所得税法には以下のように規定されています。
 
企業所得税法 
第6条 企業は貨幣形式または非貨幣形式により各種源泉から取得した収入を収入総額とする。以下の収入が含まれる。
(1)物品販売収入
(2)役務提供収入
(3)財産譲渡収入
(4)株式利子、配当金等の権益性投資収益
(5)利息収入
(6)賃貸料収入
(7)特許権使用料収入
(8)受贈益収入
(9)その他の収入
 
企業所得税法実施条例 
第13条 企業所得税法第6条にいう企業が非貨幣形式により取得した収入は、公正価値に基づき収入額を確定しなければならない。
前項にいう公正価値とは、市場価値に基づき確定される価値を指す。
 
第20条 企業所得税法第6条第(7)号にいう特許権使用料収入とは、企業が特許権、ノウハウ、商標権、著作権およびその他特許権の使用権を提供して取得した収入を指す。   
特許権使用料収入は、契約で約定した特許権の使用者が特許権使用料を支払うべき期日に収入の実現を認識する。
 
これによると、財産譲渡、リース、ノウハウ提供は全て公正価値で収入を認識することとされています。
 
ここで、部品の無償支給が財産譲渡にあたるかが問題となりますが、OEM契約で完成品を買い戻すことが前提となる場合、一般的に無償支給された部品の所有権は移転しておらず、(3)財産譲渡にあたらないと解釈するのが妥当だと思われます。
一方で、設備の無償貸与については、有償か無償かに関わらず原則として所有権の移転を伴わない取引であり、設備を賃貸している状態自体から価値が生じていると考えられますので(6)の賃貸料収入に該当すると解釈できます。
ノウハウについても、委託先の製造工程を支援することで技術が移転したと考えると、(7)特許権使用料収入を得ていると見なすことができます。
 
そのため、実務上はいずれも売上を認識しない処理が一般的かと思いますが、企業所得税法の考え方に厳密に従うとすると、設備の貸与やノウハウの提供については仮に無償であっても市場価格にて税務上の売上を計上する必要があることになります。
 
 
 
 

②増値税

続いて、増値税法ではどうでしょうか。
増値税の関連通達には財貨と役務のそれぞれについて以下のような規定があります。
 
中華人民共和国増値税暫定条例実施細則
第4条 団体或いは個人事業所の下記行為は財貨の販売と見なす。
(8)自家製造、委託加工または購入した財貨を其の他団体又は個人に無償贈与すること。
 
営業税から増値税への徴収変更試行の全面展開に関する通知 (財税[2016]36号)
付属文書 1: 営業税から増値税への徴収変更試行に関する実施弁法
第14条 下記の状況はサービス・無形資産或いは不動産の販売と見做す:
(1)単位或いは個人事業主が、その他単位或いは個人に無償でサービスを提供する。但し公益事業に用いる或いは社会公衆を対象とする場合を除く。
(2)単位或いは個人事業主が、その他単位或いは個人に無償で無形資産或いは不動産を譲渡する。但し公益事業に用いる或いは社会公衆を対象とする場合を除く。
 
つまり、増値税法上も部品の無償支給は無償贈与にあたらず、財貨の販売と見なされない一方で、設備の無償貸与やノウハウの無償提供はリースサービスや無形資産の無償提供として販売行為と見なされることとなります。
 
ではその見なし販売価格ですが、こちらは企業所得税法と異なり、以下の通り納税者の直近の同種サービス・無形資産の平均販売価格等に基づいて税務局が決定する権利があると規定されています。
 
第44条 納税者に発生した課税行為の価格が明らかに低過ぎる或いは高過ぎる、且つ合理的な商業目的を有していない場合、或いは本弁法第14条に列記した行為が発生したが売上高がない場合、主管税務機関は以下の順序に則り売上高を確定する権利を有する:
(1)納税者が最近の時期に販売した同類のサービス・無形資産或いは不動産の平均価格に則り確定。
(2)その他の納税者が最近の時期に販売した同類のサービス・無形資産或いは不動産の平均価格に則り確定。
(3)課税標準価格に則り確定。
課税標準価格の公式: 課税標準価格=原価×(1+原価利益率) 原価利益率は国家税務総局が確定する。
合理的な商業目的を有していない場合とは、税収利益の取得を主要目的として、人 為的な処理を通じて、増値税の税金納付を減少・免除・遅延させる、或いは増値税の税金還付を増加させることを指す。
 
 
 
上記により、部品の無償支給については原則税務上も売上を認識する必要は無さそうです。
 
では、設備の貸与やノウハウの提供については無償より有償の方がいいのか、という点ですが、経営範囲上の制約や実務上それに伴う煩雑さなどを鑑みると一概には言えませんが、上述の税務リスクを厳密に避けるという観点では合理的な価格での有償契約とした方が、税務リスクの低い取引形態と言えるかと思います。

 

 

 

 

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