中国子会社を清算、費用は大体いくらかかる?
新型コロナの影響が長引き、またウクライナ問題なども間接的に影響して中国事業からの撤退を検討されている外資企業が増加しています。
直近の在中国欧州商工会議所のアンケート調査では、中国の厳格な新型コロナ対策を受け、過去10年間で最も高い割合である23%の会員企業が現行の対中投資や今後の計画を他国市場に移すことを考えていると答え(※1)、米国商工会議所の調査では現行の中国投資計画について52%が「延期」もしくは「減少」するとして過半数を超えています(※2)。
日系企業に対する同様の調査は実施されていませんが、上海日本商工クラブの実施した直近のアンケート調査では、上海市に所在する工場54社の内80%の工場が操業停止中と回答しており(※3)、今後の日系企業による対中投資への影響は不可避であると考えられます。
中国子会社の清算を検討する上で、今後の事業推移の予測に加えて清算コストの試算が欠かせません。
そこで、本コラムでは専門家を交えての清算シミュレーションの前段階として、企業のご担当者自身でざっくりとした清算コストを概算で把握いただくための全体像を大まかに解説します。
あくまで清算というオプションが選択肢足り得るかという初期的な検討に資する概算コストを見積もるという趣旨から、あえて精度を度外視したかなり乱暴な試算である点はご了承いただければと思います。
清算コストを見積もる上でまずは清算スケジュールを仮定する必要があります。
一般的な会社清算のルールと手続きでは、清算の機関決定後に人員解雇や債務整理が想定されていますが、日系企業の場合は決定前の清算準備段階である程度進めておくケースが多いと思います。
そのため、ここでは清算準備に半年、清算手続きに半年がかかると仮定してみます。
以下100%出資子会社を前提に、非製造企業と製造工場で共通するコストを中心に見ていきたいと思います。
その中でも、キャッシュアウトを伴うコストとPL上だけで計上されるキャッシュアウトを伴わないコストに分かれます。
キッシュアウトを伴うコスト
①管理費用
1つ目のコストは清算完了までの会社の維持費用です。
会社が存続する限りは人件費や賃料など一定の固定費がかかります。
人員解雇とそれに伴うオフィスの移転を清算機関決定前後と仮定すると、通常の管理費用が半年分、解雇以降も1名程度の経理担当者には残留してもらうことが一般的ですので、後半の半年間は1名分の人件費に加え、簡易オフィスの賃料などの管理費用がかかると見積もりましょう。
②労務費用
続いて労務費用です。
未払残業代、社会保険料の未納付などを含め種々の労務リスクがないかどうかは清算計画策定時に検討する必要がありますが、最低限必要となる費用は法定の経済補償金です。
全従業員のリストを作成し、直近1年間の給与+賞与額と勤続年数を並べ、勤続年数が1年に満たない端数は1年に切り上げます(厳密には2008年以降の勤務については半年に満たない端数は半年に切り上げます)。
さらに直近1年間の給与+賞与額を12で割った平均基準月額に勤続年数をかけた金額が法定の経済補償金額と仮定します。
清算解雇であっても事前に合意をする場合は法定の補償金に上乗せして支給することが一般的であるため、この総額に例えば1.1~1.3程度の計数をかけた数字を労務コストとして見積もります。
厳密には2008年1月1日の労働契約法施行以降と2007年12月31日以前で計算方法が異なったり、三期期間中の女性社員など個別対応が必要になったりと、もう少し踏み込んで試算すればより精度が上がりますが、この段階では思い切って省略します。
またその他多くの企業で別途検討が必要となる労務リスクが存在しますが、最終的にこれらの労務リスクを織り込んで経済補償金を設定することとなるため、この時点では労務リスクの定量評価は一旦保留としていいかと思います。
③専門家費用
会社の清算時には専門家を起用することが一般的です。
主に上述の解雇に際しての弁護士や清算資金、財務、税務周りの会計士といった専門家です。専門家費用は起用される専門家により一概には見積もれませんが、休眠状態でない通常の貿易会社の場合数万元~数十万元、大規模な工場の場合は数十万元~百万元以上となるのではないかと思います。付き合いのある専門家に概算を聞いてみてもいいかと思います。
④債務弁済費用
続いて清算時点で有する債務の弁済額と債権の回収額との差額は直接のコストとなります。
債権債務の内容は会社により様々ですが、まず帳簿上の債務に加え、進行中の契約を途中解約することによる解約金、賠償といった簿外債務や場合によっては顧客へのサービス保証債務を関連会社に引き取ってもらうための費用などをBSの内訳明細や主要な契約書を睨みながら漏れがないように足していきます。
そこから売掛金の内、回収が困難と思われる金額を保守的に見積もった残額を回収可能額として上記の弁済額から差し引きます。資産計上されている駐在員のマンションやオフィスの保証金なども中途解約により回収できなければ債権から差し引きます。
棚卸資産や固定資産は明細を元に資産価値があるものは回収可能額に加えますが、価値がなく廃棄処分に費用がかかるのであればコストに加えます。
⑤税金関連費用
税金関連費用も予め見積もっておくべきリスクです。
これはかなり詳しい方であっても決算書だけ見てもリスクを把握するのは困難かと思います。
一方で申告漏れが多額に及ぶ場合、場合によっては清算の意思決定にも影響を及ぼしますので、詳細な清算計画策定時にはきちんとチェックをしておく必要があります。
逆に専門家の立場からはどうしても網羅的にリスクを把握しておかないといけないという姿勢にならざるを得ないのですが、実際は清算時の税務事項の確認を担当する当局担当者もそこまで税法に精通しているわけではなく、清算計画時にかなり議論して準備をした税務リスクについても蓋を開けてみれば何も問題にならない、ということも少なからずあります。
そのため、色々な意味で最小コストで清算を完了する、という点からすれば税務リスクに配慮しすぎない、というのも一つの判断としてあり得ます。
ここでは一旦、中国子会社にこれまで管理部門専任の日本人が駐在して現地でしっかりモニタリングしていた場合をリスク低、管理部門専任の日本人は駐在していなかったものの日本人は駐在しており、定期的な本社財務部門からの決算のフォローがある場合をリスク中、割と現地ローカル担当者任せにされている場合をリスク高、という形で申告漏れリスクは定性評価のみとします。
申告漏れリスクの他に上記の清算費用と後述の債務免除益等を反映して清算期間に利益が計上される場合は、税務登記抹消前に納付する企業所得税や増値税もキャッシュアウトを伴う清算コストの一部として加える必要があります。
また追徴課税に関連するものとして、清算に伴い過去に適用した優遇税制の適用条件を充足していなかったことが判明した場合、遡及的に取り消される場合があります。
代表的なものでハイテク企業認定による企業所得税の軽減税率(25%⇒15%)適用がありますが、それ以外にも色々な優遇税制があるので、自社で何を適用しているかわからなければ財務担当者に聞いてみましょう。
万一取り消されるとキャッシュインパクトは大きいですが、リスクはそれほど大きいものではないため、この時点では思い切って見積りコストは計上しておかなくても大丈夫かと思います。
ざっと上記を足し合わせたものが非製造企業と製造工場に共通するキャッシュアウトを伴う清算コストのたたき台になります。
キャッシュアウトを伴わないコスト
続いてキャッシュアウトを伴わない、PL上の費用です。
⑥有形資産
まず棚卸資産について、清算に伴う在庫処分は通常の販売価格よりも低く処分することが多いため、除却損が発生します。
固定資産も同様ですが、償却が終わっている固定資産の場合、帳簿価額よりも高く処分できることもあるため、逆に売却益が生じることもあります。有償で処分できればキャッシュインが生じますが、特に帳簿価額より低く処分する場合は帳簿価額との差額がキャッシュアウトを伴わないPL上の費用となります。
⑦債務免除益
続いて、上述のコストを債務に計上した簡易清算BSを作り、実質的な債務超過の金額を見積もります。
清算を検討される会社は債務超過が多いと思いますが、債務超過のままでは清算ができませんので、グループ内企業に対する債務であればDESにより資本金に振り替えるか債権を放棄してもらう、或いは親会社や関連会社からの増資、もしくは借入等によって債務超過を解消する必要があります。
債権を放棄してもらう場合、債務免除益はPL上の費用をマイナスする効果が生じますが、過年度の累損と清算期間の損失で十分相殺が可能かを検討します。相殺できずに清算期間に利益が出る場合は25%の企業所得税のキャッシュアウトが生じてしまいます。一方で債権放棄をする日本の親会社、または中国内の関連会社の方でも寄付金として損金算入が認められない場合の税務上の影響についても併せて検討しておく必要があります。
⑧未控除の仕入増値税額
最後に中国では増値税率の違いにより、未控除の仕入増値税が多額に計上されているケースがあります。
特に売上に適用される増値税率に対し、大部分の仕入の増値税率が高いような業種に多く見られます。
仕入増値税額は仕入の時点ですでに取引先に支払ったものですので、清算に伴うキャッシュアウトは生じませんが、清算までの売上増値税からは控除しきれない場合が多く、その場合はPL上の費用に計上することとなります。
一方で、最近の制度では中小企業や一部業種の製造業では未控除仕入増値税の還付を受けることが可能です。その場合はキャッシュインを伴う債権回収として加味することとなります。
以上が非製造企業と製造工場で共通する清算コストとなります。
上記に加え、製造工場では非製造企業にない論点も検討する必要があります。
工場の清算コストの見積もりにおいて概ね共通して必要となる項目は地方政府との投資協議書のレビュー、債務履行の確認、土地使用権の評価、環境調査含む土地の現状回復費用の見積もり、立ち退きの場合は補償内容の把握、といったものが挙げられます。
ただし上記は個別の検討が必要となる要素が多く、また簡易的な見積りが難しいため、本コラムでは割愛させていただきます。
以上、具体的な撤退プランを専門家と協議する前に、簡便なシミュレーションとしてご活用いただければ幸いです。
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