中国《中小企業代金支払保障条例》改正:日系企業が知るべき3つの要点と影響とは?
1.中国ビジネスの「支払いルール」が変わる
中国では、これまで政府機関や大企業による中小企業への支払遅延が大きな問題となっていました。これにより、多くの中小企業が資金繰りに苦しみ、事業の継続が困難になるケースも少なくありませんでした 。
この状況を改善するため、中国政府は《中小企業代金支払保障条例》(以下、「本条例」)を改正し、2025年6月1日から施行しました 。この改正は、中小企業の資金繰りを改善し、より公平で健全なビジネス環境を築くことを目的としています。
中国で事業を展開する日系企業の皆様にとって、この新しいルールを理解し、適切に対応することは非常に重要になります。
特に、中国国内で「大企業」に該当する日系企業は、支払い慣行の見直しが急務です。
2.3つの大きな変更点
今回の改正で、特に注目すべきは以下の3点です。
- 大企業も「60日以内」の支払いが義務化
これまでの条例では、大企業の求められる支払期限は「合理的な期間」と曖昧でした 。
しかし、改正後は、
大企業は中小企業への支払いを原則として「物品・サービス提供日から60日以内」に行うことが明確に義務付けられます 。ここでの「大企業」とは、中国の産業分類ごとの従業員数、売上高、資産総額などの基準で「中小企業」に該当しない企業を指します 。例えば、工業分野では従業員1000人以上、または売上高4億元以上などが大企業の目安となります(詳細は業種により異なります) 。
この60日ルールは、大企業が中小企業に対して行う支払いに適用されます 。
大型企業同士の取引には直接適用されません。また、「第三者からの入金があって初めて支払う」といった、実質的に支払いを遅らせるような条件(いわゆるバックツーバック支払い)は禁止されます 。
- 不当な「手形払い」や「電子債権」の強制を禁止
大企業が中小企業に対し、現金ではなく商業手形や電子債権証書などの非現金決済を強制し、実質的に支払い期間を延長する行為が禁止されます。
これにより、中小企業はより確実に現金を受け取れるようになります。 - 紛争のない部分は速やかに支払い義務
契約の一部に紛争がある場合でも、紛争のない部分については、大企業は速やかに支払いを履行しなければなりません 。
これにより、一部のトラブルを理由に全体の支払いが滞ることが防がれます。
3.監督と罰則の強化
政府機関、事業単位、国有大企業などは、毎年、中小企業への未払い状況を報告する義務があります 。
悪質な支払遅延があった場合、大企業は政府からの財政支援や投資プロジェクトの承認が制限される可能性があります 。
国有大企業の担当者には処分が科され、中小企業への脅迫や報復行為も厳しく罰せられます 。
これは、単なる罰金に留まらず、企業の事業活動やイメージに深刻な影響を与える可能性があるため、コンプライアンスの重要性が一層高まることとなります。
4.日系企業への影響と対応
従い、この改正は在中国日系企業にとって大きなメリットをもたらすとともに、必要な対応を講じることが肝要です。
- メリット: 支払いが早まり、キャッシュフローが改善されることが期待できます。不当な取引条件を拒否する法的根拠も得られます 。これにより、資金繰りが安定し、事業運営がしやすくなります。
- 積極的な「中小企業」告知: 契約締結時や取引開始時に、自社が中国の基準で中小企業に該当することを相手方(特に大企業の場合)に積極的に伝えることより、本条例の保護対象であることを明確にできます。
- 契約内容の確認と交渉: 提案された契約書の支払期限が60日以内であるかを確認し、それ以上の長期設定は条例違反であることを指摘し、交渉する法的根拠があります 。また、不当な手形払いや電子債権の強制を拒否し、現金支払いを要求できます 。
- 証拠の保全: 契約書、納品書、請求書、支払い遅延に関するメールやチャット履歴など、すべての関連証拠を適切に保管してください。万が一の紛争時に重要な証拠となります。
- 苦情処理メカニズムの活用: 支払遅延が発生した場合は、条例に定められた苦情処理窓口(省級以上の中小企業促進業務総合管理部門)を通じて、速やかに苦情を申し立てることができます 。
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