26年1月1日から施行される中国新増値税法、その影響とは?
中国において最大の税収を占める増値税(日本の消費税に相当)について、2024年12月25日に第十四期全国人民代表大会常務委員会第十三回会議で「中華人民共和国増値税法」(以下、「増値税法」)が可決され、2026年1月1日から施行されることとなりました。
以下では、新しく施行される増値税法の概要や実務への影響について分かりやすく解説します。
1.増値税法の制定背景
増値税は中国の税収全体の約4割を占める基幹税目でありながら、これまでは税法ではなくあくまで「条例」としての位置づけでした。今回、税制の安定と透明性の向上を目的とし、正式に増値税法が制定されることとなりました。
今回の増値税法制定の背景には、以下の要因が挙げられます。
- 税収法定原則の徹底: これまで増値税は「増値税暫行条例」という国務院の条例に基づいて運用されていましたが、今回の法制定により、法律に基づく課税という原則が確立されました。
- 現代的な増値税制度の構築: 1994年の導入以来、増値税制度は段階的に改正されてきましたが、今回の法制定は、これらの改正を包括的にまとめ、現代的な制度として再構築するものです。
- 経済発展への対応: 近年の中国経済の発展、特にサービス業の拡大や新たなビジネスモデルの登場に対応するため、増値税制度の見直しが必要とされていました。
2.増値税法の概要
増値税法は全6章38条で構成されており、主な内容は以下のとおりです。
- 課税範囲: 中国国内における貨物、サービス、無形資産、不動産の販売、および貨物の輸入が課税対象となります。
- 税率と納税額: 現行の13%、9%、6%の3段階の税率が維持され、一部の貨物・サービスの輸出にはゼロ税率が適用されます。納税額の計算方法(売上税額から仕入税額を控除する方式)も維持されます。
- 税制優遇措置: 小規模納税者に対する納税起算点の設置、法定免税項目の列挙、国務院による特別優遇政策の制定権限などが規定されています。
- 徴収管理: 税務機関による徴収、輸入貨物に対する税関による代徴、納税義務発生時期、納税地、課税期間、源泉徴収義務者などが規定されています。
- 関連法との連携: 関税法との連携、中外合作による海洋石油・天然ガス採掘に関する増値税計算方法など、他の法律や決定との整合性が図られています。
3.増値税法の重要な変更点と実務への影響
今回の増値税法では、現行制度からの変更点もいくつか見られ、実務上の処理においても影響を与える可能性があります。
以下、主要な変更点を解説します。
- 「視同販売」の範囲縮小: 「視同販売」とは、本来は販売取引ではない行為を、税務上「販売とみなす」制度です。
例えば、自社で生産した商品を役員が個人的に使用する場合や、支店間で商品を移動する場合などが該当しますが、増値税法では従来の「視同販売」の範囲が大幅に縮小されました。特に、同一法人内の異なる拠点間での貨物の移動(例えば、支店から本店への移動)は、原則として「視同販売」の対象外となります。これにより、企業内での貨物移動に係る事務負担が軽減されることが期待されます。 - 「国内で発生した取引」の判断基準明確化: 「金融商品の販売」における「国内で発生した取引」の判断基準が明確化されました。
「金融商品が国内で発行された場合」、または「販売者が国内の法人または個人である場合」は、「国内で発生した取引」とみなされます。これにより、これまで判断が曖昧だった国際的な金融取引の課税関係が明確になります。 - 徴収率の統一: 簡易課税方式における徴収率が3%に統一されました。これまで5%の徴収率が適用されていた一部の取引(例えば、不動産賃貸)も3%となるため、税負担が軽減される可能性があります。
- 販売額の調整規定の追加: 販売額が著しく高い場合、税務当局が販売額を調整できる規定が追加されました。これは、企業が意図的に販売価格を高く設定し、不当に税制優遇を利用することを防ぐための措置と考えられます。
- 貸付サービスに係る仕入税額控除: 法規上、貸付サービスに係る仕入税額の控除が明確に否定されていません。今後の通達や解釈の明確化を待つ必要がありますが、もし控除が認められることになれば、企業の資金調達コストが低下する可能性があります。ただし、不正な控除を防ぐための発票管理の重要性が高まることにも留意が必要です。
- 飲食サービス等の仕入税額控除: 飲食サービス、住民向け日常サービス、娯楽サービスについても、「直接消費に使用する場合」にのみ仕入税額控除が認められないという規定に変更されました。これにより、業務目的で使用する場合(例えば、接待のための飲食)は控除が認められる可能性が高まりました。
- 仕入増値税還付の選択権: 「仕入増値税還付」とは、仕入増値税額が売上増値税額を上回る場合に、その差額(還付未済額)を還付してもらう制度です。
増値税法では納税者が仕入増値税還付を受けるか、次期に繰り越して控除するかを選択できる権利が明記されました。ただし、「国務院の規定に従う」という文言が追加されたため、今後の具体的な運用に注目する必要があります。 - 税務機関の部門間連携: 税務機関が他の政府機関と連携し、税務情報共有体制を構築することが明記されました。これにより、税務調査の精度と効率が向上することが予想されます。
4.最後に
今回の増値税法制定は、中国の増値税制度の法制化における重要な一歩であり、税制の安定と透明性の向上に大きく貢献することが期待されます。
企業にとっては、新しい法律への対応が求められますが、適切な対応を行うことで、税負担の軽減や業務効率の改善につなげることも可能です。
本コラムが、皆様の増値税法理解の一助となれば幸いです。
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