免税手当を使った節税スキーム 中国個人所得税の実務シリーズ⑦
(2021年12月17日追記)
個人所得税法の改正に伴い、内容を加筆修正しました。
中国での給与所得の税率は最高で45%で、かつ日本よりも控除項目が少なかったり、最高税率が適用される所得水準が日本より低いことから一般的に中国の所得税負担は日本より重いと考えられています。
(中国個人所得税制度の解説はこちら)
ただし中国では以下のようないくつかの手当は外国人に限り免税とすることが認められていますので、これらをうまく活用することで合法的に実効税率を下げることが可能です。
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住宅手当(水道光熱費、駐車場代は含まない)
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食事手当
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クリーニング手当
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引越手当
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ホームリーブ手当(年2回まで、本人分のみ)
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語学研修手当(本人分のみ)
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子女教育費手当
①住宅手当を活用するケース
まず、多くの日系企業では、住居は会社負担とされていると思いますので、住宅手当は免税で申告するのが一般的です。
以下では仮に手取り給与が6万元、家賃が2万元(会社契約)のケースで、所得税額を計算してみます。
※計算を簡便化するため、社会保険料の控除や賞与等の影響は加味していません。
A : 手取所得額 年間720,000元(60,000元×12カ月)
B:免税手当額 年間240,000元(20,000元×12カ月)
C : 基礎控除額 年間60,000元
D : 課税所得額 = (A-C-速算控除額)/(1-税率)+基礎控除額 = (720,000 – 60,000 – 85,920)/(1-35%) + 60,000 = 943,200元
E : 個人所得税 = (D-基礎控除額)*税率-速算控除額 = (943,200 – 60,000)*35% – 85,920 = 223,200元
となります。
そのため、家賃まで含めた所得1,183,200元(=943,200元+240,000元)に対する税額は223,200元と約19%の実効税率となります。
②住宅手当と食事手当を活用するケース
次に、この手取り給与のうち、一部が単身手当や海外赴任手当などである場合を考えます。
中国では単身手当や海外赴任手当などは免税対象となりませんので、この手当を免税となる食事手当として支給することとします。食事手当の金額は15,000元とします。
A : 手取所得額 年間540,000元(45,000元×12カ月)
B:免税手当額 年間420,000元( (住宅手当20,000元+食事手当15,000元)×12カ月)
C : 基礎控除額 年間60,000元
D : 課税所得額 = (A-C-速算控除額)/(1-税率)+基礎控除額 = (540,000 – 60,000 – 52,920)/(1-30%) + 60,000 = 670,114.29元
E : 個人所得税 = (D-基礎控除額)*税率-速算控除額 = (670,114.29 – 60,000)*30% – 52,920 =130,114.29元
となり、①よりも個人所得税の負担額が93,085.71元低くなりました。
家賃まで含めた所得1,090,114.29元(=670,114.29元+420,000元)に対する税額は130,114.29元と約12%の実効税率となります。
上記のように手当の種類を中国で免税とされている手当として支給することにより、合法的に節税が可能ですが、②のようなスキームを採用している日系企業はあまり多くありません。
これは人事規程や出向規程を変更したりといった手続き的な問題や、免税手当分の発票は各自で支出時に取得する必要があるなどの実際の運用面での課題があるためだと思われますが、制度上は手当の上限額の定めがなく、実務的にも妥当な範囲での免税手当は十分認められていることから、そうしたハードルをクリアできれば十分な節税効果が見込めます。
筆者の知る限りでは欧米系のプロフェッショナルファーム(会計事務所や人材紹介会社)などではいずれもこのスキームを採用しています。
③配偶者を雇用するケース
さらに小規模なオーナー企業などでは、配偶者を雇用することにより、日本の専従者控除制度に似た節税効果を享受できます。
例えば、上記のケースと同額の手取り給与をオーナー社長一人に支給するのでなく、配偶者の方を経理人員として雇用するとします。
その上で社長の給与を30,000元、食事手当10,000元、住宅手当20,000元とし、配偶者の方の給与を15,000元、食事手当5,000元とすると上記の②と世帯としての所得は全く同じです。
この場合の詳細な計算は省きますが、所得が分散することにより累進課税の低い税率が適用され、かつ年間60,000元の基礎控除が2人分使えますので、結果として個人所得税課税額は二人合わせて67,973.33元(社長57,440元+配偶者10,533.33元)となり、②のケースより更に低くなります。ただし、配偶者の給与が低すぎると就労許可を取る際のハードルが高くなるといった問題があるので注意が必要です。
一般的な日系企業で採用できるスキームではありませんが、外国人による中国でのスタートアップやオーナー企業にとっては有効な方法です。
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